ケアマネージャーは「マネージャー」という名称がついてるせいか、管理職のようなイメージを持つ人が少なくありません。
「ケアマネは現場に出なくていいんでしょう?」
「上から指図する立場だよね?」
「介護士より仕事が楽そう」
もし、そのような声をケアマネが聞いたら
「全然わかっていない」
とため息をつくでしょう。
ケアマネの仕事の範囲は広く、多忙を極めています。
そして多くのケアマネは、仕事の忙しさにストレスを感じています。
本記事では、外出や連絡調整が多い居宅ケアマネにフォーカスし、ケアマネが忙しい原因とケアマネの知られざる仕事について解説します。
ケアマネの仕事に興味がある方やケアマネとおつきあいがある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
ケアマネの仕事とは
ケアマネの仕事は、介護を必要とする人の相談にのり、介護保険サービスが受けられるように支援することです。
居宅ケアマネの仕事内容は以下の通りです。
- 相談対応
- ケアプラン作成
- 事業者との連絡調整
- 利用者宅訪問
- モニタリング
- 要介護認定の手続き
- ケアプランの見直し
- サービス担当者会議の開催
- 介護支援経過等の記録
- 給付管理
上記①〜⑩は、利用者さん一人につきケアマネが行う仕事です。
ケアマネが担当する人数が30人なら、30人分の仕事量になります。
ケアマネの仕事は、利用者さんの生活の質を左右する責任の重い仕事です。
その一方で煩雑な事務仕事も多く、事務所に戻るとパソコン作業に忙殺されます。
ケアマネのストレスとは
もともとの仕事量が多いこともケアマネの忙しさの要因ですが、それ以上にケアマネを悩ませていることがあります。
ケアマネの日常業務の中でストレスになっている原因について、深堀りします。
●仕事の手順が多く、勝手に簡略化できない
一般の会社なら、社員が働きやすいように業務の効率化を図ります。
会議をリモートにしたり、煩雑な手順を簡略化したり、さまざまな手を尽くして仕事を最適化しようとします。
しかし、ケアマネの場合は、それができません。
ケアマネは、介護保険法の厳しいルールに沿って仕事をするよう決められているのです。
書類作成、サービス担当者会議の開催など、細かいルールが決められています。
そのルールを守らなければ、報酬が減額されてしまうのです。
もちろん、仕事をする上でルールは大切です。
しかし、細かいルールにばかり縛られていると心が疲れてしまいます。
●3年に1度、介護保険法の見直しがある
介護保険法は、3年に1度法改正が行われます。
年々増え続ける介護費と社会情勢の変化を考えれば、3年に1度の法改正は仕方がないことかもしれません。
しかし、改正の度に制度が変わり、内容もどんどん複雑化しています。
また省庁が発信する文書はわかりにくく、読み解くだけで一苦労です。
ケアマネは難解な文書を理解し、新しい制度やルールを覚え、利用者さん一人ひとりにわかりやすく説明しなくてはなりません。
●介護業界がアナログである
介護業界は全体的にアナログです。
居宅ケアマネは連絡調整が多いにもかかわらず、ほとんどが電話やFAXでやり取りをしています。
電話だと情報が残らず言った言わないで揉めたり、聞き間違えたりするリスクもあります。
また相手が不在のことも多く、何度もかけ直したり、逆に電話がかかってきて仕事が中断されたりします。
FAXを送付する際、個人情報に配慮し利用者さんの名前を虫食いで塗りつぶすのが一般的です。
そのため、FAX送付は手間がかかります。
「書類、送付状の作成⇒印刷⇒名前の塗りつぶし⇒FAX送付⇒シュレッダー」
この一連の作業をFAXを送る度に行います。
また、FAXは他の書類に紛れることもあるため、送付や受け取りを電話で確認する作業もセットになっています。
●ケアマネの資格更新の研修に何日もかかる
ケアマネは試験に合格し実務研修を受けた後、晴れてケアマネの資格を取得することができます。
しかし、資格を取得したら終わりではありません。
5年ごとに研修を受けて更新する必要があります。
5年に1度とはいえ、研修に何日も拘束され、その間は仕事ができません。
研修のために他のケアマネに仕事をお願いしたり、逆に仕事をお願いされたります。
ケアマネの人手不足が深刻化するなか、多くのケアマネがもう少し柔軟な研修制度を望んでいます。
また更新の研修には、2〜4万円程度の費用がかかります。
法人が負担してくれる場合もありますが、自分で負担しているケアマネもいます。
そのため、更新の費用負担が原因でケアマネを辞め、更新がない介護福祉士に戻る人もいます。
ケアマネの知られざる仕事とは
ケアマネが抱えているストレスや仕事量の多さについてまとめました。
しかし、ケアマネは本来の業務外の仕事を引き受けざるをえない場面が多々あります。
業務外の仕事とは、日常生活の困りごとなど本来なら家族がすれば解決することです。
ケアマネが現場で直面する現実
利用者さんが独り身だったり、家族と離れていたり、家族と疎遠だったり、さまざまな事情で家族を頼れないケースがあります。
そのような利用者さんのお宅に伺うと「蛍光灯が切れているけど替えられない」「ワクチンの予約が取れない」「薬をもらいたいけどひとりでは病院に行けない」などの悩みを聞くことになります。
電気がつかず暗い中で食事するのは気の毒です。
ワクチンのネット予約は高齢者には難しいし、薬がなければ病気が悪化します。
利用者さんに経済的に問題があり自費サービスを利用できないとなるとケアマネが手を貸すしかありません。
介護保険からこぼれ落ちる仕事
介護保険からこぼれ落ち、誰かがしなければ日常生活に困ることはたくさんあります。
今の日本社会にはその受け皿が用意されていません。
なぜならそういった仕事ははじめから「ないもの」とされているからです。
結局一番近くにいるケアマネが家族の代わりをやらざるをえないのです。
介護保険制度上ではケアマネがやるべき仕事ではありません。
しかし、それは会議室の中だから言えることです。
「もっと現場を知ってほしい!」
ケアマネは心の中でそう叫んでいるのです。
今後行政に期待すること
介護業界がアナログだという問題については、厚生労働省がICT化の導入を進めています。
システム間で連絡調整を行いデータを共有し、行政への書類提出もネットで完結できるよう、アナログからの脱却に向け舵を切りました。
しかし、課題もあり、システム導入費用を事業者が負担することやICT化のために研修時間を確保することがネックになっています。
行政はICT化を進めていますが、具体的な導入方法は事業所に丸投げのため、ICT化はあまり進んでいないのが現状です。
介護業界の効率化を本気で考えるなら、思い切った補助金制度と具体的な道筋を示すべきでしょう。
ケアマネの非効率で煩雑な仕事量を考えたら、ICT化の導入は最優先で行うべきでしょう。
今、ケアマネは介護保険からこぼれ落ちる名もなき仕事を必死でこなしています。
これはケアマネの善意です。
しかし、善意はいつか息切れします。
国が本気で不足しているケアマネの数を増やしたいと考えているなら「ケアマネはこうあるべき」という高い理想を掲げる前に、現場のケアマネの声を聞くべきです。
ケアマネが本来の仕事に集中できるようになるためには、抜本的な改革が必要なのです。