認知症は認知機能の低下によって生じる病気であり、日常生活に深刻な影響を及ぼします。加齢や遺伝的要因などによって引き起こされる場合もありますが、一気に進む原因はいくつかあります。
今回は認知症が一気に進む原因と、急に症状が悪化した場合の注意点や認知症の方への接し方のポイントについてご紹介します。
認知症が一気に進む原因
認知症で最も多いとされるアルツハイマー型認知症は基本的にはゆっくりと進行します。しかし、場合によっては認知症の症状が急に進むケースもみられます。
認知症の方は変化に対応することが難しいとされており、急激な変化は認知症の症状を進めます。
以下で認知症を進める原因についてみていきましょう。
- 引っ越しや入院による環境の変化
- 病気やケガによる変化
- パートナー喪失などの関係の変化
引っ越しや入院による環境の変化
急激な環境の変化は精神的負担が生じるため、環境の変化により認知症が一気に進むケースがよくみられます。
例えば、病気やケガでの入院生活です。慣れない環境は不安感が強くなり、ストレスがたまります。
認知症の方は空間認知能力が低下しているため、周囲の環境を認識するのが困難な状態です。「いつもと違う場所」という不安感は脳を疲れさせ、認知症の進行を早めます。
病気やケガによる変化
病気やケガによっておこる変化も認知症を進める要因です。病気やケガにより活動が制限されるとストレスは増大します。
例えば、自分の思うように体が動かせない身体的なストレスや、生きがいや趣味が制限される社会的なストレスを感じるでしょう。
ストレスから精神的に不安定になり、認知症の症状は悪化します。
パートナーの喪失
長年、一緒に過ごしたパートナーが亡くなることは大きな喪失体験です。
社会から取り残されたような感覚になり、社会とつながろうとする意欲が失われます。社会性が低下すると孤独感が生まれ、精神が不安定になり、認知症の症状が悪化する可能性があります。
認知症の症状が一気に悪くなった時に注意すべきポイント!
認知症はいくつかの要因で急に症状が悪化します。しかし、認知症ではなく他の病気で症状が悪化しているように見える場合もあるため、注意すべきポイントがあります。
以下で、症状が一気に悪くなった時に注意すべき病気をくわしく解説しましょう。
- 慢性硬膜下血腫
- せん妄
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は転倒した際のダメージにより、大脳と頭蓋骨内側の硬膜に血液が溜まった状態をいいます。
転倒後の数日から数週間後に症状がでることが多く、症状は頭痛や歩行がおかしい、なんとなく元気がない、言葉が出にくいなどです。
慢性硬膜下血腫の治療をおこなうと症状は治りますので、認知症の症状が急に出現した場合は医療機関で診察を受けましょう。
せん妄
せん妄とは、意識が混濁して幻覚や妄想、興奮などの症状が出現する急性の精神症状です。
入院患者の10~30%で発症するといわれており、肺炎などの病気による環境変化や苦痛が原因です。
治療としては原因となる病気の治療をおこないながら、苦痛緩和や環境調整をおこないます。安心感をもってもらうことでせん妄の症状は落ち着きます。
入院している場合は今までにはない症状が急に現れる場合が多いので、せん妄の診断は難しくありません。入院中だけでなく、家で生活をしている方にもせん妄はみられます。「せん妄かも」と感じた場合は医療機関で相談しましょう。
これらの認知症と間違いやすい病気は検査体制が整っていない病院では見逃す可能性があります。血液検査や頭部CTやMRIなどの画像検査ができる医療機関で、専門医の診断を受けましょう。
認知症が進むとどのような症状が現れるのか
認知症は発症すると認知機能が少しずつ低下します。
主な症状としては記憶障害や言語障害、空間認知障害、判断力の低下、行動の変化、日付や時間の認識の低下があげられます。
認知症が進むとどのような症状が現れるのか具体的にみていきましょう。
記憶障害
認知症の最も多い症状は短期の記憶障害です。何かを学習したり新しい情報を覚えたりすることが困難になる方がほとんどです。
最初のころは軽度の記憶障害として時間や場所、日常生活の行動などを忘れます。記憶障害が進むにつれ「ご飯を食べていない」などの経験自体を忘れてしまうようになります。
言語障害
言語障害がでると言葉を見つけることが難しくなります。言葉がでてこないため文章を組み立てるといった作業が困難になるでしょう。
また、言葉の理解が難しくなり、他者とのコミュニケーションがうまくとれなくなります。
空間認知の障害
空間認知は移動や物の取り扱い、建物の内外での運動や交通など、日常生活の活動に必要な認知機能のひとつです。
しかし、認知症を発症すると自分がどこにいるか、周りに何があるかを認識するのが困難になり、次第に「住んでいる家がわからない」など日常生活に支障をきたすようになります。
判断力の低下
日常生活に必要な判断ができなくなります。例えば、適切な服装や気温に合った服装を選ぶのが難しくなり、冬なのに半袖を着用してしまうこともあります。
感情コントロールの変化
感情のコントロールができず、怒りっぽくなるのも認知症の症状のひとつです。不安や混乱からイライラしたり、暴力的な行動をする場合があります。
人格や性格が変わったかのように怒りっぽくなったりと気分が安定しません。協調性や自制心に影響を及ぼし、社会的な行動や集団生活が困難になる場合もみられます。
認知症を発症したからといって、上記の症状が一度に全て現れるわけではありません。
認知症の症状を悪化させないためのポイント
認知症の方への接し方は、慣れていない方にとっては難しく感じるのではないでしょうか。
ここでは症状を悪化させないためのポイントを解説します。
- 症状の理解
- 安心感を与える
- 最低限のサポート
- 家族や介護者の休息とリフレッシュ
それぞれ詳しく解説します。
症状の理解
まずは、認知症の症状を理解することが大切です。認知症の症状について知り、認知症の方への理解を深めましょう。
物事を忘れてしまったり、今までのような行動ができなくなることは認知症の症状です。
認知症の方は自分では解決できない不安を感じています。家族や介護者は認知症の症状を理解し、認知症の方の感情や気持ちを敏感に感じとるように意識しましょう。
安心感を与える
認知症の方は「いつもできていたことができない」「どうしたらいいのかわからない」という思いのなかで過ごしており、ささいな出来事でも不安になります。
不安を取り除くために、家族や介護者は声かけや行動で安心感を与えることが重要です。不安が強い場合には、背中や二の腕などの体の一部を手のひらで優しくさすってあげるのも良いでしょう。
認知症が進むと物事の事実は忘れてしまいますが、その時に感じた感情は残ります。笑顔での柔らかいコミュニケーションを心がけましょう。
最低限のサポート
認知症を発症すると、認知機能の低下により日常生活に支障をきたします。今までできていたことがおこなえず、自立した日常生活が難しくなるでしょう。
家族や介護者は生活全般のサポートをおこなう必要があります。しかし、サポートしすぎると本人の考える機会を奪ってしまいます。
認知症の進行を遅らせるためには、自分で考えて判断することが重要です。自分でできることはしてもらうように最低限のサポートを心がけましょう。
家族や介護者の休息とリフレッシュ
家族や介護者自身の休息が大切です。認知症の方の理解が追いつかない行動に対してストレスを抱えやすくなります。リフレッシュすると気持ちに余裕もうまれるため、適度に休息しましょう。
認知症の方は自分を理解してくれる人を頼りにします。気持ちに寄り添い安心感を与えることが認知症の症状を悪化させないためのポイントです。
急激な変化により認知症は一気に進む可能性がある
認知症は急激な変化により一気に進んでしまう可能性があります。
認知症と間違いやすい病気もあり、認知症が一気に進んだ場合には注意が必要です。日々の変化を敏感に感じ取り、医師や薬剤師といった医療スタッフと連携をとりながらサポートをおこないましょう。
認知症の方の気持ちに寄り添い安心感を与えることが、認知症の症状の悪化を防ぐための重要なポイントです。