ケアプランとは、ケアマネが本人や家族の意向を聞いて介護目標を定め、介護サービスを記す計画表のことです。
ケアプランには「どのような介護サービスを利用してどのような生活を送りたいか」本人の意向を記入する項目があります。
認知症高齢者のケアプランを書く際、本人の意向が分からず頭を悩ませているケアマネも多いのではないでしょうか。
本記事では、認知症高齢者の意向を汲みとる方法とケアプランの書き方について紹介します。
【認知症】ケアプランの問題点
認知症の方のケアプランをみると、本人の意思やニーズが反映されていないケースが多く見受けられます。
なぜケアプランに本人の意向が反映されないのか、それはケアマネが認知症高齢者に質問しても回答を得られないことが多く、はっきりとした希望を伺うことが難しいからです。
その一方で、在宅介護の場合、家族からの要望が強い傾向があります。
「デイサービスやショートステイをもっと増やしてほしい」など、介護負担の軽減を求める内容が多い印象です。
もちろん、家族の負担を軽くする介護サービスを設定することもケアマネの重要な仕事です。
しかし、できあがったケアプランの内容が家族の希望ばかりで本人の意思やニーズが反映されていないなら、そのケアプランは片手落ちということになります。
【認知症】本人の意向が大切な理由
一般的なケアプランでは、日常生活の中で本人ができないことを課題として掲げ、課題を解決するためにどのような介護サービスが必要かを考えます。
一方、認知症のケアプランでは、本人ができることに目を向け、好きなことや得意なことが本人の意向であると捉えています。
たとえば、もともとパチンコが好きな高齢者が認知症になり、家族からパチンコに行くことを禁止されたケースでは、パチンコに行かなくなったことで認知症の症状が一気に進行してしまいました。
パチンコによる脳の刺激がなくなり、認知症がひどくなることもあるのです。
家族がパチンコに行くことをよく思っていなかったとしても、本人が好きでやりたいと希望するなら、パチンコができるよう通う頻度や使うお金の金額などを一緒に考えることが大切です。
好きや得意を伸ばしていくことがやる気を引き出し、認知症の進行を遅らせることが期待できます。
【認知症】本人の意向を汲みとる方法
認知症の症状が進行してくると、なかなか本人の意向を汲みとることが難しくなります。
質問してもオウム返しの返事しか返ってこなかったり、ただ頷くだけだったり、言葉による意思疎通ができない状態になります。
そのようなときは、これまでその方がどのような生活をしてきたのか、好きなことや関心があることは何かを家族から情報を得る必要があります。
その上で本人と向き合い、意向について確認していきます。
では、どのようにして本人の意向を確認したらよいのでしょうか。
認知症の症状が中等度の場合と症状が重い場合に分けて説明します。
認知症の症状が中等度の場合
中等度の認知症になると、もの忘れがひどくなり、記憶を留めておくことができなくなります。
また、理解力や判断力も低下するので、会話をするのが難しくなることも多いでしょう。
【イエス・ノーで答えられる質問をする】
少しでも言葉で意思疎通ができるなら、イエス・ノーで答えられるような質問をしましょう。
選択肢のある答え方なら利用者さんも答えやすくなるため、意思確認がしやすくなります。
ケアプランの方向性が固まったら、言葉で伝えるだけではなくメモに書いて見える場所に貼っておくとよいでしょう。
【願いごとを書いてもらう】
「何かしたいことはありますか」と聞いてもはっきりした答えが返ってこないのに、七夕かざりの短冊にはすんなりと自分の希望を書いていることがあります。
「うなぎが食べたい」
「電車の写真が撮りたい」
「歩けるようになりたい」
「友達とおしゃべりしたい」
叶えられない希望であったとしても利用者さんの本音を読み取ることはできます。
意向やニーズを引き出すヒントになるでしょう。
願いごとを知る機会は七夕に限りません。たとえば、アンケートという形にして願いごとを聞いたり、会話の中で「一つ願いが叶うとしたら?」という質問をしてみたり、色々な形で願いごとを聞いてみると本音が聞き出せるかもしれません。
認知症の症状が重度の場合
もっと認知症が進んでくると「もの忘れ」という程度ではなく、家族の顔も忘れてしまいます。
言葉によるコミュニケーションができなくなり、寝たきりになる人もいます。
【身振りや手振りから気持ちを考える】
話すことができなくても、身振りや手振りや表情などに気持ちが表れます。
置かれた状況が心地よければ笑顔になり、嫌なことややりたくないことには顔をしかめたり、首を振ったりします。
【認知症の症状から気持ちを読みとる】
認知症により現れる症状は人によって様々です。
症状一つひとつの中に、本当の気持ちが隠れていることがあります。
ではどうやって気持ちを読み取り、どのようにケアプランへつなげるのか、具体的なケースでみていきましょう。
ケース1【症状】話の途中で急に暴力的になる
<症状の起因>
話が理解できないことにイライラする
<本当の気持ち>
多くの人と会話を楽しみたい
↓
<本人の意向>
話が理解できるようになりたい
<ケアプラン>
・写真やイラストなどを見せて視覚的刺激に訴えゆっくりと話しかける
・写真やイラストはたくさん並べず2択の中から選んでもらう
ケース2【症状】家に帰りたいと訴える
<症状の起因>
頭の中の時間軸がずれ昔の幸せだった頃の場所に戻りたいと思う
<本当の気持ち>
今の居場所に不安や孤独を感じている
↓
<本人の意向>
安心できる場所が欲しい
<ケアプラン>
・ケアスタッフがこまめに声かけを行い孤独を感じさせない環境づくりをする
・背中をさすったり手を握ったりスキンシップを図ることで安心感を与える
このように認知症の症状には、本人の気持ちが関係していることが少なくありません。
【認知症】ケアプランの書き方
ケアマネが本人の意向を読み取ったとしても、それが利用者さんの口から発せられたものではないので、ケアプランにどのように書いたらよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。
「〇〇したいというのが本人の意向です」とあたかも本人が言ったように書くのは違うような気がします。
かといって「意思疎通ができず本人の意向は〇〇だと想像する」と書くと「それって本当なの?」と思われてしまいます。
おすすめの方法としては、なぜケアマネ自身がそう思ったのか、その経緯をきちんと書くことです。
- 「意思疎通は難しいが本人の表情をみて本人の意向は〇〇であると読み取った」
- 「家族から以前より笑顔が増え落ち着いているとの話もあり、今の介護サービスを継続したいという本人の意思を推測した」
- 「デイサービスをお試しで利用したが、笑顔がなく時折大声をあげるなど居心地の悪さを感じている様子。本人は在宅でのサービスを希望している」
このように、これが本人の意向だと思うに至った経緯を書くと説得力があります。
またケアマネから見た客観的事実を書くので書き方に迷うこともないでしょう。
本人の意向を確認するマニュアルはない
本人の意向を確認するマニュアルはありません。
これまで紹介した方法もほんの一例です。
一人ひとりと向き合い、試行錯誤しながら確認する方法を見つけていくしかないのです。
利用者さんがどんな性格でどんな人生を歩んできたのか、そして今は何を思っているのか、さまざまな観点から本人の意向を確かめ、ケアプランに反映させていくことが大切です。