日本では高齢化が進むとともに認知症の人も増え続けています。
令和7年には約700万人、高齢者の5人に1人が認知症になるとの予測が、厚生労働省より出ています。
しかし、認知症の症状に「もの忘れ」があることはよく知られていますが、それ以外の症状はよくわからないという方は多いでしょう。
そこで、認知症について、さまざまな症状や早期に気づくためのポイントについても解説します。
認知症とは?
認知症とは、日常生活に支障をきたすほど、脳のいろいろな病気や障害により記憶力や判断力が低下した状態をいいます。
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の2つがあります。
また、認知症にはいくつか種類があり「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」などがあります。
加えて、認知症の前段階の状態を「軽度認知障害」といいます。
「中核症状」と「周辺症状」
認知症になるとあらわれるさまざまな症状は「中核症状」と「周辺症状」に分けられます。
中核症状とは脳の細胞が壊れたり脳の機能が低下したりして起きる症状です。
症状の重さには差がありますが、認知症になるとかならずあらわれます。
中核症状には以下の5つがあります。
記憶障害 | 新しいこと、最近のことが覚えられない。 比較的昔のことは覚えていることが多いが、病気の進行とともに覚えていたことも忘れてしまう。 |
見当識障害 | いつ、どこで、自分は何をしているのか、周囲の状況や人との関係性が把握できなくなる。 |
実行機能障害 | 計画を立てたり、順序立てて実行することが難しくなる。物事の同時進行ができない。 予想外のことが起きると対応できない。 |
理解、判断力の障害 | 情報を処理する能力が低下し、同時に2つのことを言われたり早口で言われたりすると理解できない。 あいまいな表現では理解できず、具体的な行動の指示がないとわからない。 |
失行、失認、失語 | 失行:運動機能に問題がないのに「服を着る」などの動作ができない。 失認:見えていても認識できない。五感で理解することができない。 失語:言葉を話すこと、理解することができなくなる。 |
周辺症状は「行動・心理症状」ともいわれます。
中核症状と本人の心身の状態、環境などが複雑に絡み合ってあらわれる症状のため個人差が大きいです。
おもな周辺症状は、うつ、徘徊、暴言・暴力、睡眠障害、もの盗られ妄想や被害妄想などです。
種類
【アルツハイマー型認知症】
脳の一部が萎縮していく過程でおこる認知症です。
認知症の中でも約7割を占め、最も発症が多いとされています。
徐々に進行していき、記憶や思考力が障害されて新しいことや最近のことが覚えられなくなります。
比較的昔のことは覚えていることが多いですが、病気が進むと覚えていたことも忘れたりできていたこともできなくなってしまいます。
【血管性認知症】
脳梗塞や脳出血によって脳の血管が障害されることによって起こります。
症状は障害された脳の部位によって異なり、障害されなかった部分の機能は保たれ、まだらに症状が起こります。
そのため「まだら認知症」ともいわれます。
【レビー小体型認知症】
発症の初期から幻視があらわれることが多いです。
「子どもが座っている」「壁に虫が這っている」など実在するかのように見えている訴えが聞かれ、夜間に起きやすいのが特徴です。
またパーキンソン病に似た症状がみられることも多く、手足の震えや小刻み歩行による転倒のリスクが高くなります。
【前頭側頭型認知症】
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮していく過程で起きる認知症です。
前頭葉は「人格・社会性・言語」、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を司っています。
そのため前頭葉と側頭葉が正常に機能しなくなると、社会性の欠如、感情の抑制が効かず、暴言や暴力をふるってしまう、感情が鈍くなり他人の気持ちがわからない、言葉が出づらくなるなどの症状があらわれます。
認知症の前段階とは
日常生活への支障はあまりないものの、記憶力や判断力が低下し、健常と認知症の間の状態を「軽度認知障害(MIC:Mild Cognitive Impairment)」といいます。
5年以内に約半数の人が認知症に移行していく可能性があります。
しかし、軽度認知障害の段階で予防対策を行うことで認知症への移行を防ぐことができ、生活習慣を見直したり運動を行ったりすることで効果が期待できます。
認知症の治療開始は早ければ早いほどよい
認知症は完治することは難しいですが、いち早く気づいて治療を開始したり適切なリハビリを行ったりすることで、進行を遅らせることができます。
したがって、小さな変化を見逃さず、心配な症状があればすぐに専門医に相談することが重要です。
初期症状
認知症の初期はもの忘れの症状から始まることが多いですが、加齢によるものなのか、認知症によるものなのかを見分けるのは非常に難しいです。
しかし、もの忘れにより日常生活に支障が出ていたり、自分の体験そのものを忘れてしまったりするのは、認知症によるもの忘れの可能性が高いです。
たとえば、大切な約束を忘れてしまう、時間を守れない、食べたこと自体を忘れてしまうといった場合です。
もし、以下のような症状がある場合は、認知症の専門医に相談するべきでしょう。
- 何度も同じことを言う、尋ねる
- 数時間前、短いと数分前のことも覚えていられない
- 同じ物ばかり買ってくる
- 物をなくす、探し物ばかりしている、またそれを人のせいにしたり被害的になる
- 日付や曜日、季節がわからなくなる
- 慣れている近所でも迷子になる
- できていた料理や掃除などの手順がわからなくなる
- お金の管理ができなくなる。小銭が数えらず、買い物でお札しか出さなくなる
- テレビの内容が理解できなくなる
- 意欲が低下する、趣味をやめてしまう
予防のために普段から気をつけることは
認知症の予防のポイントは、バランスの良い食事、適度な運動、社会的な活動に参加することです。
高血圧、肥満、糖尿病などの生活習慣病がある人は、認知症になりやすいといったデータがあります。
つまり、バランスの良い食事と適度な運動で生活習慣病を予防することで、認知症の予防にもつながります。
また、聴力の低下や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が認知機能の低下をまねくとされる研究報告もあります。
加えて、趣味を楽しんだり、社会の中で役割を持ち社会的孤立を避けて精神の安定をはかったりすることも重要です。
メリハリのある健康的な生活は「いつもできていたことができない」「趣味を楽しめなくなった」などの小さな変化に気づけるきっかけにもなるので、意識しておくとよいでしょう。
認知症の症状を知って身近な人の変化にいち早く気づき悪化を予防しよう
本記事では、認知症の症状や早めに気づくポイントについて解説しました。
さまざまな症状を知ることで、家族や身近な人の小さな変化に気づけるようになります。初期症状は本人も周りも気づくのは難しく、また気づいたとしても「一時的なもの」と軽く考えてしまい、いつの間にか病状が進行してしまうことも少なくありません。
認知症そのものを治すことは難しいですが、早期に発見して治療を開始すれば進行を遅らせることができ、自立した生活を送ることが可能です。
今は認知症予防のための脳トレ、体操などさまざまな情報を目にする機会も多いので、バランスの良い食事と適度な運動とともに、楽しみながら予防策に取り組んでいきましょう。
そして、認知症について正しく理解を深めることで、助け合える社会を目指していきましょう。