日常生活自立度とは、高齢者や認知症のある方がどのくらい自立した日常生活を送れるかを評価するための尺度です。
介護の際に「認知症の進行度合いはどのように判断されるのだろう?」と疑問をもつこともあるのではないでしょうか。
今回は、認知症高齢者の日常生活自立度について、各ランクの特徴や評価方法を紹介します。
認知症高齢者の日常生活自立度とは
日常生活自立度とは、高齢者にかかる介護の度合いを分類したものです。
日常生活自立度には「障がい高齢者の日常生活自立度」と「認知症高齢者の日常生活自立度」の2種類の尺度があります。
2つの尺度の違いは「認知症の症状」を評価しているか否かです。
障がい高齢者の日常生活自立度は、移動などの基本的動作に関わる「能力」に着目した尺度です。
どれだけ自分で動いて生活できるかを評価しています。
一方、認知症高齢者の日常生活自立度は、「認知症の症状」に着目した評価尺度です。
認知症の症状の例としては、もの忘れが目立つ、幻聴や幻視、暴力行為や不潔行為などです。
どのような症状がいつみられているのかを含めて、自立度を評価します。認知症は進行していくものなので、ランクは1度決まればそれっきりではありません。
利用者さんの状態に合わせてランクは変化します。
認知症になると理解力や記憶力が低下して、日常生活に支障をきたします。
家族をはじめとした周囲のサポートが必要です。
認知症高齢者の日常生活自立度は、デイサービスや訪問介護などの介護サービスを利用するために必要な要介護度の認定調査にも活用されています。
利用者さんに適した介護サービスを提供するためにはそれぞれの特徴を正しく理解しておくことが重要です。
認知症高齢者の日常生活自立度における9つのランクと判定基準
認知症高齢者の日常生活自立度は症状の特徴やみられる時間帯によって9つのランクに分類されます。
ランクと判定基準、みられる症状・行動の例を表で確認していきましょう。
ランク | 判断基準 | みられる症状・行動の例 |
Ⅰ | 何らかの症状を有するが、日常生活はほぼ自立している | |
Ⅱ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動やコミュニケーションの困難さが所々にみられるしかし、見守りがあれば自立して生活できる | |
Ⅱa | 家の外でⅡの状態がみられる | 買物や金銭管理など今までできていたことに困難さがみられる等 |
Ⅱb | 家の中でもⅡの状態がみられる | 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等 |
Ⅲ | 日常生活に支障を来たす症状・行動やコミュニケーションの困難さがみられ、サポートが必要 | |
Ⅲa | 日中を中心にⅢの状態がみられる | 日常生活の基本動作である着替え・食事・排泄などが上手くできなかったり時間がかかったりする食べられない物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊・失禁・大声や奇声をあげる・火の不始末・不潔行為・性的異常行為など |
Ⅲb | 夜間を中心にⅢの状態がみられる | ランクⅢaに同じ |
Ⅳ | 日常生活に支障を来たす症状・行動やコミュニケーションの困難さが頻繁にみられ、常にサポートが必要 | ランクⅢaに同じ |
M | 著しい精神症状や問題行動または重篤な身体疾患がみられ、専門的な医療が必要 | せん妄・妄想・興奮・自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態など |
ランクⅠ
何らかの症状や行動がみられますが、家の内外どちらでも自立した日常生活を送ることができます。
日常生活で誰かのサポートが必要になる場面はなく、一人暮らしが可能です。軽いもの忘れなどがありますが、大きな困りごとはありません。
周囲の人も症状に気づくことが難しいですが、治療によっては進行をゆるやかにすることができます。ランクⅠの段階で気づき、相談や指導を受けるなどの早期治療に努めることができるとよいでしょう。
ランクⅡ
日常生活に支障をきたすような症状や行動が多少みられても、誰かが見守っていれば自立した日常生活を送ることができます。
しかし、身の回りのことを自分で上手く行えなくなってくる段階です。
在宅での生活は継続可能ですが、一人暮らしは困難だと感じることもあるでしょう。
周囲からのサポートが必要になってくる段階なので、適切な支援を通して進行の予防に努めましょう。
また、症状が進行してからの生活を考え、利用者さんや家族が不安に思われていることもあります。
しっかりとヒアリングし、希望に合わせて利用できるサービスなど今後のサポート方法を検討しておくと利用者さんや家族の安心感が得られるでしょう。
ランクⅡa
家の外でランクⅡの症状がみられる状態です。
在宅での生活は可能です。しかし、慣れた家の中とは異なり、外に出れば環境が常に変化し続けています。
外の環境に合わせて、自分のおかれている状況を理解し行動することが難しくなってきます。
よくみられる症状は、少し遠くに出かけると道に迷って一人では帰れなくなったり、買い物の際の大まかな計算ができなくなったりするなどがあります。
一見サポートは必要なさそうでも、一人での外出はだんだん難しくなってくるでしょう。
困難さを感じ、家の中にこもってしまうと認知症が進行する原因にもなります。外に行くときには誰かが一緒に行くなどのサポートを行い、安心して外出できる方法を検討しましょう。
介護サービスを利用したことのない人が多い段階なので、利用者さんの状態に合わせて利用できるものを提案していきましょう。
ランクⅡb
家の中でも上記Ⅱの症状がみられる状態です。
在宅での生活は可能で、家族の介護のみで対応できることが多いです。しかし、頻繁に薬を飲み忘れてしまったり、電話や訪問の対応などが困難で一人で家にいられないなどの症状がみられます。
誰かのサポートがないと身の回りのことを行えない状態です。
家族が側にいられないときは、デイサービスや訪問介護などの介護サービスの利用を勧めましょう。 介入するスタッフが増えてくる段階なので、各関連機関との情報共有をしっかりと行う必要があります。
ランクⅢ
日常生活に支障をきたすような症状がみられ、サポートが必要となる状態です。
着替え・食事・排せつなどの身の回りのことが自分で行えず、一人暮らしをすることができません。
周囲のサポートは必要になりますが、ひと時も目が離せないというわけではないので、在宅での生活も継続は可能です。
しかし、専門的なサポートが必要になってくる段階です。
適切なサポートをしながら、認知症の進行を抑えられるように環境を整えていくことが重要です。
ランクⅢa
日中にランクⅢの症状がみられる段階です。
夜間は比較的落ち着いているため、日中のサポートを適切に行うことで在宅での生活を続けることが可能です。
日中は徘徊や奇声をあげたり、失禁や不潔行為などを行ったりすることもあります。
多くの時間で周囲からのサポートが必要になるでしょう。
そのままにしておくと認知症がより進行し症状が悪化する可能性があるため、積極的に介護サービスを利用して体制を整えていくことが重要です。
徘徊の心配がでてきたら、玄関のセンサーやGPS機能のある探知機の取付などの整備も検討しましょう。
ランクⅢb
ランクⅢaと同じくらいの進行度合いであり、症状は夜間を中心にみられます。
また、夜間に症状が出ることで昼夜逆転の生活になり生活リズムが崩れ、健康状態が悪化してしまいます。
健康状態の悪化は認知知能の低下につながり、認知症が進行しやすくなるのです。
睡眠時間を削られてしまうため、家族の負担も大きくなってくる段階です。
昼夜逆転の状態が続く場合は、医師に相談し薬を処方してもらいましょう。
また、家族だけでの介護だと負担やストレスが大きすぎるため、夜間の対応も行ってくれる介護サービスの利用を検討することが重要です。訪問介護サービスの中には、夜間対応型の事業所があります。
利用者さんや家族のニーズに合わせて適切なサービスを紹介できるよう、地域の介護サービスの特徴を把握しておきましょう。
ランクⅣ
日常生活に支障をきたすような症状や行動がしきりにみられ、常にサポートを必要とする状態です。
症状が昼夜関係なく出現し、家族や訪問スタッフは利用者さんから目が離せなくなります。
在宅での生活は不可能ではありませんが、コミュニケーションも困難に感じる段階であり、家族の負担やストレスが大きくなります。
訪問でのサポートだけでは対応が難しいと感じることもあるでしょう。
家族が困難に感じることが増えてきたら、在宅生活を無理やり続ける必要はありません。
積極的に特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設への入居も検討しましょう。
ランクM
問題行動やひどい精神状態が目立つ、もしくは重篤な身体疾患がみられ、専門機関での治療を必要とする状態です。
せん妄や幻覚、暴力行為や自傷行為などがみられます。
せん妄などは行動心理症状(BPSD)と呼ばれ、認知症の進行と心身の不調やストレスが重なると現れることが多いです。
行動心理症状がみられる場合は、進行の程度に関係なくランクMと判定されます。
行動心理症状は引き金になる原因があることが多いです。幻覚や暴力行為が起こる原因を探り、症状の軽減に努めましょう。また、精神病院や専門病棟がある老人保健施設など、専門の機関に相談することが重要です。
日常生活自立度が活用されている場面は?
認知症高齢者の日常生活自立度が利用される場面は、要介護度の認定調査とケアプラン作成時があります。
それぞれどのように利用されるのか紹介します。
要介護度の認定調査
日常生活自立度は、要介護認定をする際の判断材料として用いられています。
要介護認定とは、障がいや認知症がある人に対し、介護の必要性がどのくらいあるのかを判断するものです。
認定を受けた介護度をもとに介護施設への入居や訪問介護サービスの利用をします。
自己負担額、介護報酬などの金銭面にもかかわってくるため、利用者さんや家族に影響することはもちろん、サポートするスタッフにとっても重要です。
ケアプランの作成
日常生活自立度は、ケアプランとも呼ばれる介護サービスの計画書を作成する際に重要な判断材料になります。
ランクⅡまでであれば、利用者さん自身でできることが多く自立度が高いため、何らかの役割をもたせるなどの社会参加を促す支援内容が効果的でしょう。
一方で、ランクⅢ以上になると、周囲からの介助が必要となり症状も重い可能性があるため、精神的な安定を目的とした支援内容がよいでしょう。
利用者さんがやりがいをもちながら安心して生活するためには、認知症の程度に合わせた適切なケアプランを作成することが大切です。
日常生活自立度は誰が判定するの?
認知症高齢者の日常生活自立度は、主に認定調査員の訪問調査と主治医の判断により判定されます。
ここからは、訪問調査と主治医による主治医意見書の判定内容を解説します。
認定調査員による訪問調査
訪問調査は、市町村職員や委託法人職員、ケアマネージャーなどの認定調査員により実施されます。
なお、初回の認定調査はケアマネージャーはできず、更新や区分変更であれば可能です。家庭環境や身体状況、認知機能などを確認して、認定調査票に記載します。
認定調査員による訪問調査では、利用者さんや家族の心情に配慮しながら比較的時間をかけて行われます。
主治医による主治医意見書
主治医がこれまでの診察の状況などをもとに、主治医意見書に記載します。
ここで注意が必要なのは、認定調査員と主治医の視点に違いが生まれないようにすることです。
利用者さんは身体や心に不調があったとしても、診察時に「お変わりありませんか?」と聞かれると反射的に「変わりありません」と答えてしまう傾向があります。
医師は日々いくつもの診察をしなければならないため、じっくり話を聞くことが難しいこともあります。
医師に正確な情報を伝えるためには、周囲の人が症状や困りごとなど日々の様子を伝えることが大切です。
ケアマネージャーなどが家族や訪問スタッフと協力し、書面にまとめて提出すると良いでしょう。
認知症高齢者の日常生活自立度を活用して、その人らしい暮らしをサポート!
厚生労働省では「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指すとしています。
実現のためには、コミュニケーションを大切にした、利用者さん利用者さんが安心して生活できる環境づくりが重要になってきます。
認知症高齢者の日常生活自立度を活用して、住み慣れた場所で利用者さんが望む生活を続けられるよう、支援していきましょう。