家族や近しい人が「思い込みが激しくなった」など、もともとの性格が変化したように感じることはありませんか?
年齢を重ねると「頑固になる」などよくいわれています。
そのため言動の変化も年齢によるものだと考えがちです。
しかし今までとは明らかに違う言動や様子は、もしかしたら認知症の初期症状かもしれません。
そこで今回は認知症の初期症状でみられる思い込みや妄想について紹介します。対応方法も併せて解説します。
なぜ認知症で思い込みや妄想がおこるのか?
認知症は脳の病気や障害によって、記憶力や判断力が低下していく病気です。
認知症により脳の機能が低下していくと、認知症になった人が認識している世界と現実の世界に差ができてしまいます。
その差が理解できず、自分の認識と周囲の認識に折り合いをつけようとして、思い込みや妄想が生じるのです。
認知症になると、症状の自覚がある・ないに関わらず、自分の変化を繊細に感じるといわれています。
自分自身で「何かがおかしい」と感じるようになりますが、その原因がわからず不安や焦りを感じるようになります。
さらに大切な約束を忘れる、今までできていたことができなくなり失敗することが増えていくと、不安がより強くなるのです。
そのような不安や失敗体験が積み重なり、病気の進行、本人のもともとの性格、また周囲の人の反応や環境などが複雑に絡み合って思い込みや妄想につながります。
思い込みや妄想の種類
思い込みや妄想はいろいろな種類があり、症状のあらわれ方は個人差が大きいです。
一部の例として以下のようなものがあります。
- ものを盗られたと思い込む
- 見捨てられたと思い込む、嫉妬心がふくらむ
- 危害を加えられていると思い込む
- 見えないものが見える、聞こえる
ひとつずつ解説します。
モノを盗られたと思い込む
「もの盗られ妄想」ともいい、アルツハイマー型認知症の方に多くみられる症状です。
モノをしまい込んだり置き忘れたりして、後から自分で見つけられなくなると、盗まれたと思い込みます。
自分が忘れてしまった事実を認めたくない、周囲の人に忘れてしまったことを知られたくないという思いから妄想につながります。
身近な家族や近所の人に疑いの目を向けることが多いですが「泥棒に盗まれた」と訴えることもあります。
泥棒だと思い込むと、警察に頻繁に通報するようになってしまうので注意が必要です。
[対応方法]
身近な人から疑われるのはとても悲しく辛いことです。
しかし疑われても感情的にならず冷静に対応しましょう。
まずは本人の気持ちに寄り添うことが大切です。
どこにあるのか知っていたり先に見つけたりしても、うまく本人が見つけるようにするとよいでしょう。
もともとないものをあると思い込んで探している場合は「お茶を飲んで休憩してから、じっくり一緒に探しましょう」と気をそらすのもひとつの方法です。
見捨てられたと思い込む、嫉妬心がふくらむ
「見捨てられ妄想」「嫉妬妄想」ともいいます。
今までできていたことができなくなってしまった喪失感や、家族に面倒をみてもらっている負い目から「自分は必要ない、邪魔な存在」などと思い込みます。
家族が自分をおいて出かけたり、デイサービスやショートステイへあずけられたりすると、見捨てられたと思い込む、または配偶者が外で浮気をしていると思い込み、孤独や悲しみを感じるのです。
症状が悪化すると、家族に不信感を持つようになったり、意欲低下で引きこもったり、さらに認知症が進む原因になります。
[対応方法]
まずは本人の気持ちに寄り添い、悲しみや不安、孤独感を取り除けるようにコミュニケーションの機会を増やしましょう。
会話の中に自然と「頼りにしている」「助けられている」というメッセージを込めるように心がけます。
また本人の前で第三者と話をしたり電話をするのは避け、可能であれば一緒に話をするなど配慮しましょう。
また近所であっても一緒に出かけるなど行動をともにすることが増えれば、浮気をしているなどの妄想もふくらみにくくなります。
危害を加えられていると思い込む
誰かに狙われている、被害を受けていると思い込む妄想です。
ニュースや新聞で見た事件が自分にも起きていると訴えたり、まったく知らない人から攻撃されていると訴えたり、家族や身近な人から悪口を言われた、殴られたなどと訴えることもあります。
症状が進むと自分を守るために暴れたり暴力的になることもあり、そうなると家族だけで対応するのは困難です。
[対応方法]
本人を否定せず、寄り添い、共感することが大切です。
やってもいない暴言や暴力を訴えられるのは非常に辛く、家族がストレスによって心身の不調が出ると、介護が立ち行かなくなってしまいます。
また本人の認知症を理解していない人が「家族から暴力を振るわれている」などと聞いたら、トラブルや警察沙汰にもなりかねません。
ヘルパーやデイサービス、ショートステイなどを利用し、距離を取ること、家族も休むことが重要です。
見えないものが見える、聞こえる
多くみられるのは幻視、幻聴ですが、虫が体を這っていると感じる体感幻覚もあります。
幻視はレビー小体型認知症の方に多くあらわれる症状です。
実在しているように生々しく見えるといわれ、そのため突然怖がり始めたり、興奮したりします。
また幻聴もはっきりと聞こえているため、急に怒りだして大声を出したり、会話のように喋り続けることもあります。
[対応方法]
本人にとっては現実に起きていることだと理解し、決して否定しないようにしましょう。
否定すると、混乱して危険な行動につながりかねません。
たとえば、虫や蛇がいるとの訴えの場合は、窓を開けて追い払う行動を取るのです。
また、部屋が暗い場合は明るくして一緒に確認すると、一緒に確認する行動自体で落ち着くことも多いです。
自分で見間違えたと納得して落ち着く場合もあります。
困った言動の背景にある気持ちを汲み取る
思い込みや妄想による言動は、周囲から見たら支離滅裂で自己中心的にしか思えないこともあるでしょう。
もちろん「盗んだ」「殴られた」など事実と異なることを言われるのはとても辛く、理不尽に感じるでしょう。
しかし本人も認知症になった辛さ、悔しさ、不安や負い目などを抱え、
自尊心が傷ついていることも忘れないようにしましょう。
思い込みや妄想にうまく対応して介護を続けていくためには、介護のプロの力をかりることが大切です。
認知症を理解し、早期発見と適切な対応を心がけよう
本記事では、認知症の初期症状でみられる思い込みや妄想とその対応方法を解説しました。
誰でもさまざまな性格を持ち合わせているため、思い込みが激しくなったように感じても「機嫌によるもの」「一時的なもの」と見過ごしがちです。
また日本では認知症患者は増え続けており、誰でもなる可能性がある病気です。
しかし家族や身近な人の場合「うちの親にかぎって」「○○さんにかぎって」と思いがちです。
認知症は治すことは難しいですが、早く発見し治療を開始できれば、症状を軽くしたり病気の進行を遅らせたりすることができます。
認知症の知識は大切な人のために、また自分自身のためにもぜひ身につけておきましょう。