認知症は完治することが難しく、徐々に日常生活に支障をきたすことが多くなってきます。
認知症ケアとは、認知症の方の人間性や感情を尊重し、自主性を支える支援方法です。
しかし、家族や介護者も認知症ケアの実践には多くの苦労やストレスが伴います。
今回は、認知症の方の尊厳を守りながら、認知機能の低下を予防したり、進行を遅らせたりする認知症ケアの基本的な考え方と支援方法をお伝えします。
認知症ケアの基本
認知症ケアとは、認知症の利用者に対して心身の状態やニーズに応じ、医療や介護などのサービスを提供することです。
認知症ケアには「医学的なケア」と「心理的・社会的ケア」の2つの側面があります。
医学的なケアは、薬物療法やリハビリテーションなどで、脳の機能を改善や維持が目的です。
心理的・社会的ケアとは、コミュニケーションやレクリエーションを実施し、心の健康や社会参加の促進をいいます。
心理的・社会的なケアは、介護者だけでなく、家族を巻き込んで実施する必要があります。
そこで次に、認知症ケアを行うポイントを紹介します。
早期発見・早期対応
認知症は早期に発見し、早期対応が大切です。
早期に認知症を発見することで、進行を遅らせたり、合併症を防ぎ、家族に必要な情報と支援を提供することができます。
早期発見・早期対応には、かかりつけ医や地域包括支援センターが大きく関わっています。
認知症予防
認知症は完全に予防することはできませんが、予防に効果的な生活習慣や活動があります。
例えば、適度な運動や食事、睡眠などの健康管理や、趣味や学びの脳トレーニングや地域の催しなどの社会参加です。
これらの生活習慣や活動は、脳の血流や神経伝達物質などを改善し、脳の機能を高める効果があります。
また、ストレスや孤立感などの精神的な要因も認知症のリスクを高めるため、気分転換や人との交流も大切です。
BPSD(認知症の周辺症状)への対応
BPSDとは「認知症になってから起こる徘徊や暴言などの行動や感情の変化」をいいます。
例えば「怒りっぽくなる」「幻聴・幻覚」「意欲がなくなり元気がない」「一人でウロウロと歩き回る」「暴言や暴力が見られる」「不眠」などの症状です。
これらの症状は介護者や家族にとって大きな負担になります。
BPSDの原因は、脳の障害だけでなく、生活環境や人間関係、身体的な不調などさまざまです。
BPSDへの対応は、以下のような対応が有効的です。
- 環境を整えて、安全で快適にする
- 安心感や楽しさを与える工夫をする
- 認知症の人の気持ちや立場に立って話を聞く
- 論理的に説得するのではなく、感情的に共感する
- 適度な刺激や活動を提供する
- 否定や抵抗をしないで、受け入れる態度を示す
- 身体的な不調や薬の副作用がないか確認する
- 自分自身のストレスや感情をコントロールする
認知症の人の介護を行うときは、尊厳を守り自立した生活を支援することが求められますが、認知症ケアには「パーソン・センタード・ケア」という大切な理念と「ユマニチュード」というコミュニケーション技法があります。
次にそれぞれを分かりやすく解説していきます。
パーソン・センタード・ケアとは
認知症ケアの基本的な考え方が「パーソン・センタード・ケア」です。
「介護される本人の価値感やライフスタイルなどを考慮し、1人ひとりに合ったケアを行うことで症状が改善傾向になり、本来の姿を取り戻せるのではないか」とイギリスの社会心理学者トム・キットウッドによって提唱されました。
パーソン・センタード・ケアの具体的な取り組み
パーソン・センタード・ケアは、決して専門的な技術や知識ではなく、認知症の利用者さんの気持ち(心理的ニーズ)を知ることが重要な支援とされています。
心理的ニーズとして、①自分らしさ、②結びつき、③携わる、④共にある、⑤くつろぎと提唱されています。
これらのニーズが満たされると、認知症の方は自分の価値を感じられ、生きる気力を保てます。
パーソン・センタード・ケアを実践するには、以下のような支援方法があります。
- 性格や生活歴、趣味や好みなどを把握し、それに合わせたケアや活動を提供する
- 健康状態や脳の障害の程度を考慮し、身体的な不快感や苦痛を軽減したり、周囲の環境を整える
- 本人が自分らしく表現できるように、コミュニケーションや関わり方に配慮する
- 孤立や疎外感を感じないように家族や友人との連絡や交流を促す
- 声や表情に耳を傾け、思いやりや共感を示す
- 家事などできる範囲の役割を与え、貢献できる機会を作る
パーソン・センタード・ケアは、人としての尊厳と人生の質を高めることを目指します。
認知症の人に寄り添い、その人らしさを大切にしたケアを行うことが、パーソン・センタード・ケアの取り組み方です。
「ユマニチュード」とは
認知症ケアでよく用いられる技法として「ユマニチュード」があります。
ユマニチュードとは、認知力の向上を目指すケア・コミュニケーション技法です。
フランスで生まれたこの技法は「人間らしさを取り戻す」という意味をもち、相手の心に寄り添うケアで、特別な道具や難しい技術は必要ありません。
ユマニチュードは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」を4つの柱と「ケアの5つのステップ」を用いて介護を提供するコミュニケーション技法であり、認知症の人に対して有効なケア技法です。
ユマニチュードの「4つの柱」
【見る】
相手の目線に合わせて見ることで相手に関心を示し、対等な関係であることを伝える
【話す】
相手の名前や敬称で話しかけ、前向きな言葉使い心地よい状態を作り出す
【触れる】
手や肩などを優しく触れて安心感を与えながら優しさを伝える
【立つ】
寝たきりにするのではなく、立つ機会を与えることで人間らしさを保ち、身体的・精神的な健康を保つ
「立つ」という支援方法が加わることがユマニチュードの特徴です。
また、言葉だけでなく「見る」「触れる」「立つ」という非言語を通して相手を大切に思っていると伝えます。
安心や信頼を得ることができ、能力や尊厳の維持につながります。
ユマニチュードの「ケアの5つのステップ」
「ケアの5つのステップ」は、一連のケアを行う時に必要な手順です。
それは、「準備」「接近」「接触」「実行」「終了」の5つです。
【準備】
ケアの目的や内容を相手に伝える
【接近】
相手に気づいてもらうために声かけや目配せをする
【接触】
相手に触れる前に許可を得る
【実行】
4つの柱である「見る」「話す」「触れる」「立つ」を使ってケアを行う
【終了】
ケアが終わったことを相手に伝える
これらの技法を用いると、認知症の方に「あなたは大切な存在です」と伝わり、心理的な落ち着きや幸福感を高める効果があります。
介護者にとってユマニチュードを実践することは、自分の仕事にやりがいや充実感を感じるきっかけになることでしょう。
「人生の先輩」という尊敬を忘れない!認知症ケアで尊厳を守る支援を
認知症ケアは、単に認知症を治すという医療的ケアを指すのではなく、心理的・社会的ケアの部分が大きな役割を担っています。
パーソン・センタード・ケアやユマニチュードの実践は、日々の寄り添う姿勢が大切です。
認知症ケアは教科書通りにいかないことが多いですが、一緒に談笑したり、できた喜びを分かち合う時間の積み重ねで成り立ちます。
認知症の利用者さんの尊厳を守り、心に寄り添い、生活する中での不便や苦悩、悲しみへの理解を深めることが認知症ケアの一歩です。