認知症は多くの高齢者が発症する病気のひとつであり、介護職にとっては重要な課題です。
本記事では介護職が認知症の基礎知識を身につけるために、認知症について解説します。
認知症の症状や注意すべき行動の変化、そして介護職が認知症に対して取り組むべきアプローチも具体的に紹介していきます。
認知症とは何か?
認知症は年齢や疾患などによって引き起こされる脳の機能障害であり、主に記憶、思考、言語、判断力などが低下する症状が現れます。
認知症の原因には、アルツハイマー病、脳血管障害、レビー小体の蓄積などがあります。
認知症の種類・原因・症状
認知症の種類は複数あります。主な認知症の種類は以下の通りです。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- パーキンソン病性認知症
それぞれの認知症の症状と原因を説明します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は認知症の中でも、最も一般的な疾患です。
脳内の神経細胞の異常によって脳機能が低下します。
主に記憶障害が初期症状として現れ、次第に判断力や言語能力も低下します。
脳血管性認知症
脳血管性認知症の原因は脳梗塞や脳出血などの脳の血管に異常が生じたことによって、脳内の神経細胞が死滅し、脳機能が低下することです。症状は、異常行動や急激な記憶障害などが挙げられます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症の原因は、レビー小体と呼ばれる神経細胞内の異常物質が脳に蓄積することによって脳機能が低下することです。アルツハイマー型認知症に似た症状の他に、幻覚や錯乱、パーキンソン病のような症状が現れることが特徴です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞の変性により、脳機能が低下することが原因です。人格や社会性、行動の変化が初期症状として現れます。
パーキンソン病性認知症
パーキンソン病を発症した利用者さんが、後に認知症を併発することがあります。脳内の神経細胞が障害され、手足の震えや動きの速度の低下に加え、記憶障害や認知機能の低下が現れます。
認知症の原因によって症状や治療法が異なる
本記事で紹介した原因に加え、アルコールや薬物の乱用、脳外傷なども認知症の原因となることがあります。
認知症の症状は原因によって異なりますが、一般的には脳内の神経細胞の損傷や死滅、神経伝達物質の不足などによって脳機能が低下し、記憶障害や思考力の低下、判断力の低下などが現れます。
認知症の原因はさまざまであり、認知症によって治療法が異なります。例えば、アルツハイマー病にはアセチルコリンを増やす薬物治療が行われますが、脳血管障害には血圧を下げることや運動療法が有効です。
認知症の予防には、生活習慣の改善や脳トレなどが効果的で、健康的な食生活、適度な運動、十分な睡眠などは、脳の機能を維持するために重要です。クロスワードパズルや数独、読書などの認知症予防につながる趣味を持つのも良いでしょう。
認知症の代表的な症状
認知症は、脳の機能障害によって記憶、思考、言語、判断力などが低下する症状が現れます。以下では、代表的な認知症の症状について詳しく説明します。
- 記憶障害: 認知症の代表的な症状で、新しい情報を覚えることが難しくなり、過去の出来事や人物に関する記憶も薄れていきます。
- 言葉の出しにくさ: 言葉がでなかったり、話が途切れたり、理解できない場合があります。
- 判断力の低下: 判断力や意思決定能力が低下し、家事や買い物などの日常生活に支障をきたすことがあります。
- 行動や判断力の異常: 自己中心的な言動や幼児化した行動、現実感覚の欠如、人の動きに遅れて反応することがあります。
- 情緒不安定: 怒りっぽくなったり、落ち着きがなくなったり、不安や恐怖心が増したりすることがあります。
認知症のBPSD(行動心理症状)とは
認知症に伴って、行動や心理的な症状が現れることがあります。これをBPSD(行動心理症状)と呼びます。代表的なBPSDは以下の通りです。
- 幻覚や妄想: 実際には見えない物が見える、実際には聞こえない声や音が聞こえるなど、現実からかけ離れた経験をします。
- 徘徊: 目的もなく家の中を歩き回ったり、家を出て道に迷ったりすることがあります。
- 不穏:周りの人や物に対して、攻撃的な態度を取ることがあります。落ち着きをなくし、危険な行動にでることもあります。
- 過度の食欲や食欲不振:食べ物に対する過度の欲求や、食欲がなくなることがあります。
介護職にとってBPSDは、認知症患者のケアにおいて大きな問題になる場合があるため、正確な評価と適切な対処が求められます。
注意すべき行動の変化について
認知症の利用者さんには、注意すべき行動の変化が現れることがあります。
例えば、家族や介護者への攻撃的な言動、トイレやお風呂でのトラブル、食事量の変化などがあります。
これらの行動の変化は認知症の症状の1つであり、適切なアプローチを行うことが必要です。
次の項目では、注意すべき行動の変化を詳しく紹介します。
不安や恐怖心
認知症を患っている利用者さんは、周囲の環境や人間関係の変化に敏感で、不安や恐怖心が増すことがあります。
介護職は患者の不安や恐怖心を解消するため、常に相手の立場に立って対応することが必要です。
徘徊や脱走
認知症を患っている利用者さんは、家を出て徘徊してしまったり、外出先で迷子になったりすることがあります。
介護職は、利用者さんの安全確保に努める必要があります。
排泄のトラブル
認知症を患っている利用者さんの中には、排泄のタイミングを忘れたり、トイレの場所が分からなくなったりすることがあります。
介護職は定期的に利用者さんにお手洗いに行くよう声かけをしたり、失禁に対する適切な対処を行うことが必要です。
食事のトラブル
認知症の方は食べることを忘れたり、食べ物を噛む力や飲み込む力が低下することがあります。
介護職は利用者さんの健康状態に合わせた食事の提供や、嚥下体操などを行うことが必要です。
睡眠の問題
認知症の方は夜中に目が覚めたり、昼寝が多くなったりすることがあります。介護職は利用者さんの睡眠の質を向上させるために、睡眠環境の整備や睡眠のリズムを整えることが必要です。
認知症に対する介護職のアプローチのポイント
介護職は利用者さんとのコミュニケーションを大切にし、共感し、信頼関係を築くことが必要です。
また、利用者さんの行動の変化を観察し、その変化に応じたケアを提供することも重要といえます。
例えば、徘徊が増えた場合はスリッパや靴下の底に滑り止めをつける。移動の自由を制限するのではなく、安全な範囲内で自由に移動できるスペースを確保するなど、患者に合わせた対処が必要です。
さらに、認知症患者の行動の変化には、感情や痛みなどが原因の場合があります。
例えば、不安や怒りが表面化している場合でも、実際には膀胱炎や便秘などが原因である場合がありますので、注意深く観察しましょう。
介護職は、利用者さんに対して痛みや不快感を伴う症状の有無を確認することが何より重要といえるでしょう。
介護職は、利用者さんとの関係を良好に保つことも大切です。
認知症を患っている利用者さんは、一緒にいる人の顔や名前を覚えられないことが多いため、毎回自己紹介を行い、短い言葉で説明することが求められます。
さらに、患者が自分の思いや気持ちを伝えることができない場合でも、表情や声のトーンなどから感情を察知し、適切な対応をすることが必要です。
以上のように、介護職が注意すべき認知症の行動の変化には、様々な要因があることがわかります。
認知症の利用者さんに対する介護職のアプローチのポイントは、利用者さんの状態や個性に合わせた適切なコミュニケーション、安全面の確保、適切なレクリエーションの提供、利用者さんのご家族への情報共有などが挙げられます。
さらに、認知症の進行を防ぐための1つの方法として、レクリエーションでは音楽や絵画などの芸術活動、手芸や料理などの手作り活動が有効です。
患者と家族をサポートし、認知症による困難な状況に適切に対処することが介護職の役割です。