認知症を疑った時や診断された時には「認知症って治療したら治るの?」と疑問に思う方がほとんどでしょう。
認知症の種類にもよりますが、一般的に周知されている認知症は現在の医療では治せません。
しかし、薬物療法や非薬物療法を用いて、認知症の症状の進行を遅らせたり、改善することはできます。
今回は、認知症の治療について解説していきます。
この記事を読んで、少しでも不安が解消できれば幸いです。
認知症の治療の種類
認知症にはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症などさまざまな種類があります。
種類によって症状や進行度合いが異なり、症状に併せて治療がおこなわれます。
認知症の治療の種類は、薬物療法と非薬物療法です。
以下で詳しく解説していきます。
- 薬物療法
- 非薬物療法
薬物療法
薬物療法は、あくまでも症状を和らげたり、進行を遅らせたりすることが目的です。
認知症の完治が目標ではないので注意しましょう。
薬物療法は、中核症状と周辺症状によって処方される薬が異なります。
中核症状の特徴
ここでは、中核症状の特徴と処方される薬を詳しくみていきましょう。
中核症状とは、主に記憶力や認知機能に関する認知症の中心的な症状です。
具体的には、以下のような症状が挙げられます。
- 記憶障害:最初は短期記憶が低下し、進行とともに長期記憶も低下する
- 見当識障害:時間や場所、対人関係などを把握する能力が低下する
- 失語:機能的な問題がないのにスムーズに言葉が出ない、相手の言っている意味がわからない
- 失行:身体的な問題がないのに日常の動きができなくなる
- 失認:視覚や聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感が正常に働かなくなる
- 判断力障害:日常的な問題の判断力が低下する
- 実行機能障害:計画を立てたり、実行することが困難になる
これらの症状は、認知症の種類や進行度合いによっても異なります。
例えば、アルツハイマー型認知症であれば、記憶障害、見当識障害が中核症状として出現しやすく、新しいことを覚えられない、自分の家がわからないなどの症状が現れます。
また、レビー小体型認知症では、実際にそこにいない物が見える「幻視」が特徴的です。
いずれの症状も、日常生活でさまざまな制限を与えます。
中核症状に処方される薬
中核症状には、抗認知症薬のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤や、NMDA受容体拮抗薬が処方されます。
現在、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に対してのみ、抗認知症薬は使用されます。
血管性認知症や前頭側頭型認知症に使える抗認知症薬はありません。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 | NMDA受容体拮抗薬 | |||
一般名 | ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | メマンチン |
製品名 | アリセプト | レミニール | イクセロンパッチリバスタッチパッチ | メマリー |
効能・効果 | アルツハイマー型認症、レビー小体型認知症の進行を遅らせる | アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる | ||
形状 | 内服薬 | 内服薬 | 貼用薬 | 内服薬 |
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症では神経伝達物質のアセチルコリンが減少している状態です。
アセチルコリンが減少すると、脳のネットワークがうまく機能しなくなります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンが分解されるのを防ぐ効果があるため、抗認知症薬として使用されています。
現在、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類です。
そのなかでも、ドネペジルのみがレビー小体型認知症の適応薬です。
また、アルツハイマー型認知症はグルタミン酸の働きが乱れ、グルタミン酸は神経伝達を阻害したり、神経細胞にダメージを与えます。
NMDA受容体拮抗薬は、グルタミン酸の働きを抑制し、神経細胞の保護や神経伝達を整える効果があるので、患者さんの気持ちを穏やかにさせる働きがあります。
逆に薬の効果がありすぎると、活気がなくなることもあるので、その時には内服量の調整や中止が必要です。
周辺症状の特徴
ここでは周辺症状と周辺症状に処方される薬についてみていきましょう。
周辺症状とは、中核症状と他の要因が合わさって生じる精神症状や行動障害のことです。
周辺症状には、以下のような症状があります。
- 不安感や抑うつ症状
- 睡眠障害
- 幻覚や妄想
- 興奮や攻撃的な行動
- 摂食・排泄の異常
周辺症状の現れ方はさまざまで、患者さんの生活に多大な影響を与えるだけでなく、周囲の人々にも負担をかけることがあります。
しかし、進行する中核症状と異なり、周辺症状は周囲のケアによって軽減できます。
周辺症状を問題行動として捉えるのではなく「その人の心の表現」として受け取ることが大切です。
周辺症状に処方される薬
周辺症状には、抗精神薬や抗不安薬、睡眠導入剤などが処方されます。
これらの薬剤には、転倒や意識障害、歩行障害が副作用として出現する場合もあり、患者さんの状態や体調に応じて適切な薬剤が選択され、適切な量が投与されることが重要です。
周辺症状は、日常生活の変化や体調にも左右されます。
受診する際には、日常生活や体調の変化がなかったかを医師に伝えましょう。
また、抗認知症薬の内服により、周辺症状が改善する場合もあります。
非薬物療法
非薬物療法では、機能訓練や認知症に特化したリハビリテーション、音楽療法やアートセラピー、エクササイズなどがあり、認知症患者さんの機能維持や生活の質を向上させることが目的です。
また、認知症患者さん本人だけでなく、家族や介護者へのカウンセリングも非薬物療法に含まれます。
非薬物療法は、大きく2つに分けられます。
- 認知症患者さん本人へのアプローチ
- 家族へのアプローチ
それぞれ解説します。
認知症患者さん本人へのアプローチ
認知症患者さんの場合、思い出や記憶を呼び起こすためのトリガーを提供することを目的としたレクリエーションや、日常的なコミュニケーションの維持を目的としたグループ活動が有効です。
また、リハビリテーションをおこなうことで、身体的な環境が整えられるでしょう。
リハビリテーションにより日常生活が改善されることで、認知症の症状軽減に繋がったケースもあります。
認知症患者さん本人への非薬物療法では、認知症患者さんの「本人らしい生活」の支援が重要です。
家族へのアプローチ
家族へのアプローチの目的は、身体的・精神的介護負担を軽減し、認知症患者さんの在宅生活の維持です。
認知症患者さんの心理を知るための心理教育や、介護の負担を減らすためのレスパイトケアなどがアプローチ内容として挙げられます。
周囲の家族が認知症に対しての理解を深めることで、認知症患者さん本人も安心し、周辺症状も軽減されるでしょう。
また、家族へのアプローチは、燃え尽き症候群やうつ症状のリスクを軽減するのに役立ちます。
認知症を疑ったらどうすればいい
もし認知症を疑った場合は、まずはかかりつけ医を受診しましょう。
かかりつけ医は、患者さんの症状や状況をよく把握しているため、適切な治療法を提案してくれます。
また、情報提供もおこなってくれるので、早期に治療が開始できるでしょう。
認知症は早期治療によって進行が遅くなるので、少しでも「認知症かな」と不安に感じた場合は、一度相談してみても良いでしょう。
認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法
認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法です。
薬物療法は、中核症状と周辺症状によって処方される薬が異なり、認知症と診断されると、認知症の進行を遅らせるための抗認知症薬が処方されます。
周辺症状についても薬物療法がおこなわれますが、周辺症状は周囲のケアで改善が期待できます。
周辺症状を問題行動として捉えるのではなく「その人の心の表現」として受け取ることが大切です。
認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法の両方を取り入れた総合的な治療が最適とされています。
認知症患者さんとその周囲の人たちが協力して、認知症の治療をおこないましょう。