介護福祉士の国家試験勉強の中で「国際生活機能分類(以下ICF)」という単語が出てきたという人も多いでしょう。
試験勉強の為覚えたけれど、「ICFとは?」「介護福祉士がICFを知っておく意味はあるのか?」と疑問に思いがちです。
この記事では、ICFとは何なのかを説明します。
また介護福祉士がICFを知っておくことで、どのようなメリットがあるのかについても、お伝えしていきます。
ICFとは「生きることの全体像」についての「共通言語」
ICFは、2001年5月22日に世界保健会議で決定されたもので、訳すと「生活機能分類」となります。
「分類」という名称のために、分類リストにあてはめて整理するだけのものと思われるでしょう。
ですが、実際は違います。
また「よりよく生きていく」ためのツール(道具)として活用することができます。
ICFの特徴として「できないこと」だけでなく「できること」にも着目することです。
支援者側から見た場合、どうしても「できないこと」に注目しがちです。
その人の全体像を把握する為には「できること」にも着目し、どう活かすかが大事になります。
生活機能モデルとは
生活機能とは、生きることの3つのレベルである「心身機能・構造」「活動」「参加」の全体を包括した概念です。
一方生活機能モデルとは、生活機能の中にある3つのレベルの間の関係と、影響する3つの因子の関係を示したものであり「生きることの全体像」を示します。
ICFの生活機能モデルは、下記になります。
生活機能に影響する「因子」として健康状態・環境因子・個人因子があります。
6つの要素は互いに影響しあっているので、図では双方向の矢印で結ばれているのです。
介護福祉士がICFを活用するメリット
介護福祉士がICFを活用するメリットとして、3つあります。
- 「助けるだけの介護」から「よくする介護」になる
- 他職種との情報共有がしやすくなる
- 根拠を持ってケアを行うことができる
下記にて詳しく説明します。
「助けるだけの介護」から「よくする介護」になる
1つめは「助けるだけの介護」から「よくする介護」になることです。
介護は、「目の前の不自由なこと(活動が制限されている事柄)を手伝うこと」と思われがちです。
ですが「助けるだけの介護」を続けていると、利用者さんの心身機能は低下していきます。
また介護者も「助けるだけの介護」から「(介護が必要な人の生活機能を)よくする介護」へと変える必要があります。
そこで活用できるのが、ICFです。
生活機能モデルに基づいてその人の全体像を把握することで、その人が今後どうなりたいか」「どんな目標があるのか」が見えてきます。
すると、目標の実現に向けて具体的に動ける「よくする介護」がしやすくなるのです。
他職種との情報共有がしやすくなる
2つめは、他職種との情報共有がしやすくなることです。
介護福祉士は、看護師やリハビリ職といった他職種とやり取りしながら仕事を行うことが多いです。
また訪問介護事業所に勤務するサービス提供責任者(以下サ責)は、ケアマネジャーと頻繁にやり取りを行います。
利用者の状況を具体的に説明するツールとして、ICFを活用することができます。
根拠を持ってケアを行うことができる
3つめは、根拠を持ってケアを行うことができることです。
介護職の中には「何となくこうしたほうが良いかな」といった、漠然とした理由でケアをする人がいます。
「なぜそのケアを行うのか」が他職員で統一されていないと、職員ごとにやり方が異なる状況になりがちです。
訪問介護の場合、統一されたケアをしていないと、利用者さんや家族から「○○さんはやっているのに、なんで□□さんはやらないの?」と苦情になりかねません。
特別養護老人ホーム(以下特養)での介護でも、ICFは活用することができます。
新人職員に入居者の状況を説明するとき、ICFに当てはめながら説明すると、スムーズに行えます。
例えば「Aさんは少しだけ歩くことができる」と言われたとします。
ある人は「2,3歩程度歩くことができる」と考えるでしょう。
ですが別の人は「居室内を歩くことができる」と考える可能性があります。
ICFに当てはめた場合「Aさんは下肢の機能が低下しているので、ベッドから居室内の洗面台までしか歩くことができない」と説明することができます。
すると、Aさんの歩行状況を他職員全員が共有することができるのです。
ICFを使って「よくする介護」を実現する為には
ICFを使って「よくする介護」を実現する為には、下記の3つの手順を踏みます。
- その人が何をしたいか(目標)を知る
- 「している活動」と「できる活動」を把握する
- 目標実現の為に必要な「生活機能」と「因子」を把握する
下記にて説明していきます。
その人が何をしたいか(目標)を知る
1つめは、その人が何をしたいか(目標)を知ることです。
例を挙げると、下記があります。
- トイレに歩いて行けるようになりたい
- 食事を自分で食べられるようになりたい
- 地域のお祭りに参加したい
注意して欲しいのは「出会ってすぐに目標を知ることはできない」ということです。
初対面の相手に自分のことを色々と話すのは、抵抗があるでしょう。
ですので、最初はケアを行いつつ、信頼関係を構築することから始めます。
信頼関係ができると、徐々に自分の想いを話すようになり、その人となりの情報を収集することができるのです。
「している活動」と「できる活動」を把握する
2つめは「している活動」と「できる活動」を把握することです。
「している活動」とは、現時点で日常生活において実際に行っている「活動」の状況です。
大して「できる活動」とは「本人が頑張ればできる」「介護福祉士やリハビリ職といった専門職の援助のもと、訓練や評価の際にできる」といった状況のことです。
「している活動」と「できる活動」の間には大きな差があるのが普通です。
目標実現の為に必要な「生活機能」と「因子」を把握する
3つめは、目標実現の為に必要な「生活機能」と「因子」を把握することです。
具体的な例として、下記のICFの表に当てはめました。
上記のように、1つの目標を達成するには、生活機能と因子の相互作用を把握することが重要です。
そのうえで、他職種と連携しながら目標達成にむけた個別計画の立案や支援を行っていきます。
ICFは介護を受ける人主体で全体像を把握する
ICFは、介護を受ける人の全体像を把握するツールです。
ICFを活用する上で最も注意するのは「介護を受ける人主体」であることです。
例を挙げると、介護福祉士が「足腰が悪くなると不便だから、頑張って歩行訓練させたほうが良い」と、積極的に歩行訓練を行ったとします。
ですが介護を受ける人本人は「何で歩行訓練しなければいけないのだろう?」「今のままでも生活するのに困らないのにな。」と、不満を募らせることがあります。
考え方の違いが起こらないように、利用者さんが「どうなりたいか?」を把握しましょう。
日常の何気ないやり取りから、介護を受ける人の「やりたいこと」「できるようになりたいこと」を、知ることができます。
是非、取り組んでみてください。