日本では、65歳以上の認知症の人が増えています。厚生労働省によると、2025年には約650〜700万人に増加し、高齢者の約5人に1人が認知症になるといわれています。
そして、認知症は高齢者だけではなく若い世代でも発症することがあり、誰もがなりうる病気です。
本記事では、若年性認知症について解説し、早期発見のためのチェックリスト、介護の相談窓口や公的サービスについて紹介します。
若年性認知症とは
若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症をいいます。「若年性認知症」という病気があるわけではなく、発症年齢で区分した総称であり、認知症を引き起こしている原因の疾患はさまざまです。
初期症状は、ちょっとしたもの忘れや言葉が出にくい、性格に変化がみられるなどがあります。しかし、まだ現役で働いている世代の場合、認知症を疑わずにうつ病や更年期障害など、ほかの病気と診断されてしまうケースも多くあります。
そのため、高齢者の認知症より若年性認知症のほうが早期に発見できると思われがちですが、早期発見に至らず病気が進行してしまうことも多いのが現状です。
有病率
厚生労働省の令和2年3月「若年性認知症実態調査結果概要」によると、全国における若年性認知者数は3.57万人と推計されています。18歳〜64歳の人口における人口10万人あたりの若年性認知症者数(有病率)は50.9人です。調査によると、発症は女性よりも男性の方が多いとの結果です。
原因となる疾患
若年性認知症の原因となる疾患は、アルツハイマー型認知症が最も多く、次いで血管性認知症、そのほかは前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、アルコール性認知症などです。
- アルツハイマー型認知症:脳の一部が委縮していくことでおこる認知症。高齢者の認知症でも発症がもっとも多い。病気が進むにつれて記憶力や思考力が障害されていく。
- 血管性認知症:脳梗塞や脳出血により、脳の血管が障害を受けることによっておこる認知症。
- 前頭側頭型認知症:脳の前頭葉や側頭葉が委縮していくことでおこる認知症。社会性の欠如や感情の抑制が効かないなど、人格に変化がみられることが特徴。
- レビー小体型認知症:発症の初期から幻視がみられることが多いのが特徴。パーキンソン病に似た症状があらわれることも多い。
- アルコール性認知症:若年性認知症の方に多い。アルコールを多量に摂取し続けたことによって脳の委縮がおきたり、ビタミンB1の欠乏によって栄養障害をおこしたりして生じる認知症。
若年性認知症のチェック方法
東京都若年性認知症総合支援センターが作成したチェックリストを紹介します。
受診を迷っていたり家族の認知症が心配だったりする場合に、チェックしてみるのもひとつの方法です。ただし、医学的診断に代わるものではないため、チェックリストをきっかけとして、専門医を受診する必要があります。
認知症の疑いチェックリスト①(仕事をしている場合)
チェック結果について:「よくある」「たまにある」「ない」で解答
□仕事でミスがありますか
□会議中に集中できないことがありますか
□いくつかの業務を同時にできないことがありますか
□残業が増えたと思いますか
□仕事がはかどらないことがありますか(段取りが悪くなったと思いますか
□書類などをよく探すことがありますか
□予定を忘れることがよくありますか
□いくつかの約束を同時に入れてしまうことがよくありますか
□書類を忘れて取引先に出かけることがありますか
■仕事でミスを指摘されますか(ミスがよくあると思いますか)
■同僚の態度が以前と変わったと感じますか
■周囲に受診を勧められますか(おかしいと言われますか)
■会社までひとりで行けないことがありますか
■会社以外の取引先にひとりで行けないことがありますか
■季節に合わせてスーツなどを変えられないことがありますか
■以前と比べてお金を使いすぎることはありますか
■怒りっぽかったりやる気がないように見えるなど、以前と性格が変わったといわれますか
■コミュニケーションがとりにくいと感じることがありますか
認知症の疑いチェックリスト②(仕事をしていない場合)
□ひとりで近所での買い物ができないことがありますか
□ひとりで交通機関を利用して買い物に行かなくなりましたか
□同じものをたくさん買うことがありますか
□家の中が雑然としていることがよくありますか(掃除をしていない、片付けないことがありますか)
□洗濯物がたまっている・洗濯しないことがありますか
□洗濯物を1枚でもする・繰り返すことがありますか
□子供の世話や生活に無関心なことがよくありますか
□食事の味付けがおかしいと思うことがよくありますか
□食事の用意ができていないことがよくありますか
□食事が同じメニューばかりになることがよくありますか
□身だしなみに気を遣わなくなりましたか
□季節に合わせた洋服を着ていないことがありますか
□怒りっぽかったり、やる気がないように見えるなど、以前と性格が変わったと言われます か(パートナーに疑い深くなることがありますか)
□コミュニケーションがとりにくいことがありますか
若年性認知症の相談窓口
若年性認知症の心配があっても、病院のどの科を受診すればいいのか、相談窓口はあるのかわからない方がほとんどです。
まずはかかりつけ医に相談して、専門医を紹介してもらうとスムーズに検査を受けたり、医療機関のソーシャルワーカーに相談できたりします。
しかし、若い方はかかりつけ医がない場合も多く、またかかりつけ医で相談しても若いために認知症と診断されずほかの科を転々とすることになるなど、不調が改善されないケースも多いです。
どこの病院へかかればいいのか、どこへ相談したらいいのかわからない場合は、都道府県の保健所、高齢者相談窓口、精神保健福祉センター、認知症疾患医療センターへ相談してください。
介護全般に関して相談したい場合は、市区町村の窓口(介護保険課や障害福祉課など)や地域包括支援センターへ相談してください。
利用できる公的サービス
若年性認知症と診断された場合、利用できる支援制度があります。制度を知っておくこと、相談窓口を確認しておくことはとても重要です。
介護保険サービス
介護保険は65歳以上の方しか利用できないと思われがちですが、40歳以上の方でも利用できます。40歳以上65歳未満の方が介護保険を利用できるのは、厚生労働省が定める特定疾病を患い、介護が必要な状態となった場合です。
若年性認知症は特定疾病のひとつのため、介護保険を申請し、要介護(要支援)認定を受ければ介護保険サービスが利用できます。
訪問介護で自宅での生活のサポートを受けたり、デイサービスへ通ったり、リハビリを受けられたりします。
しかし、介護保険サービスは高齢者向けのものがほとんどで、若年性認知症の方など若い方に特化したサービスがないのが現状です。
障害福祉サービス
認知症などの精神疾患によって日常生活に支障がある場合は「精神障害者保健福祉手帳」、血管性認知症などで身体的な症状があれば「身体障害者手帳」の申請ができます。
手帳があれば、障害の等級によって障害福祉サービスを利用できたり、企業の障害者雇用枠で働き続けることができたり、税金の控除や公共料金の割引が受けられたりします。
障害年金
障害年金は、病気などにより障害を持った方の生活を支えるための年金です。
若年性認知症を発症したときに加入していた年金によって「障害基礎年金」か「障害厚生年金」かの違いがあり、また金額にも差があります。
自立支援医療
自立支援医療は「精神通院医療」ともいい、若年性認知症に関する医療費(薬局での処方薬も含む)が1割負担、もしくは所得によって負担が軽減されます。
傷病手当金
傷病手当金は、若年性認知症と診断されて仕事を休んだ場合に、給料を保証してくれる制度です。3日以上休んだ場合に4日目から支給され、最長で1年6か月受け取れます。
誰もがなる可能性のある若年性認知症の理解を深めよう
本記事では、若年性認知症について解説し、早期発見のためのチェックリスト、介護の相談窓口や公的サービスについても紹介しました。
認知症は高齢者だけではなく、若い世代でも、誰もがなる可能性があります。
今のところ完治させるのは難しい病気ですが、早期発見・早期治療によって進行を遅らせ、自立した社会生活を続けられる期間を延ばすことは可能です。
家族や身近な人、そして自分自身のために、認知症の理解を深めることはとても大切です。そして、社会全体で認知症の理解がある人が増えれば、認知症になっても住み慣れた地域で安全に暮らせる社会につながります。
ぜひ認知症に興味をもって、情報収集したり知識を深めたりしていきましょう。