親や配偶者が認知症になると、家族で介護をすることが多いです。しかし認知症家族の中には「気持ちや悩みを吐き出せない」「介護が不安」という思いを抱えている家族が多いです。
この記事では、認知症の家族が抱えがちな気持ちや悩みは何か、介護を続ける中で何を利用すると良いかといったことをお伝えします。
認知症の家族が抱えがちな気持ちや悩みとは
認知症の家族は、下記のような気持ちや悩みを持つことが多いです。
- 本人は何もできなくなってしまうのではないか
- 介護は、家族である俺(私)が1人で頑張らなければいけないのではないか
実際はどうなのか、対策方法はあるのかを下記にて説明していきます。
認知症になると、何もできなくなってしまうのではないか
1つめは「認知症になると、何もできなくなってしまうのではないか」という悩みです。確かに認知症になると記憶力や見当識(自分が今どこにいるか)の低下により、できないことが多くなります。
ですが認知症になっても、できることは多く残っています。できることは下記の例が挙げられます。
- 洗濯物を畳んだり、干したりする
- 食器を洗ったり、拭いたりする
- 箒やちりとりを使って掃除をする
上記は「手続き記憶」と呼ばれ、認知症になっても忘れにくいことが多いです。「危ないから」と、家族は何もさせないようにしがちです。ですがその行動は、余計認知症を進行させてしまいます。
失敗しても良いので、本人ができることを続けさせることが、認知症の進行を緩やかにする方法の1つです。
介護は、家族である俺(私)が1人で頑張らなければいけない
2つめは「介護は、家族である俺(私)が1人で頑張らなければいけない」という気持ちになりがちなことです。
ですが、この考え方は非常に危険です。なぜなら、介護は心身共に負担がかかるからです。
頑張りすぎると、自分でも気づかないうちに「介護疲れ」が溜まってしまいます。何年続くことになるか分からない介護を乗り切るには、頑張りすぎないことも大切です。
介護疲れを溜めないコツ、男性編
介護疲れを溜める原因は、男性と女性で異なります。
まず主たる介護者が男性の場合です。男性は仕事と同じ感覚で介護に取り組んでしまい、うまくいかないことで焦りや無力感に悩むことが多いです。
本格的な介護を始める前に心に留めて欲しいのは「介護と仕事は、まったく違う」ことです。介護の目的は、手際よくこなして介護者自身の能力を評価されることではありません。認知症当事者の辛さを少しでも和らげ、居心地良く過ごせるように援助することなのです。
ですので、家事などの自分にできないことは、人の力を借りましょう。上手に人を頼ることも、介護者に求められる能力の1つです。「介護サービスを利用したいけれど、何が使えるか分からない」という場合は、ケアマネジャーに相談するのが良いです。
介護疲れを溜めないコツ、女性編
主たる介護者が女性の場合、普段から家事や育児を担っているので、周囲から「できて当然」と見なされることが多いです。
ですが家事や育児は経験を積んだからこそ、できるようになったものです。そのうえ、介護は、家事や育児とは全く異なります。「完璧にこなそう」と頑張りすぎないようにしましょう。
また、ときには思い切り愚痴をこぼすことも必要です。家族や気のおけない友人に話を聞いてもらうだけでも、スッキリします。
在宅介護を続けるには
認知症を持っている家族を在宅で介護するのは、心身ともに負担がかかります。加えて数年単位という長期的に取り組まなければならないため、サービスや制度などを上手く活用することが大切です。
在宅介護を続けられるサービスや制度、方法を紹介します。
- 介護サービスを利用する
- 会社の介護支援制度を利用する
- 認知症の家族が、気持ちや悩みを語れる場へ参加する
- 1人で抱え込まない
詳しく説明します。
介護サービスを利用する
1つめは「介護サービスを利用する」ことです。介護認定が下りているのであれば、介護保険制度に基づいた介護サービスが利用できます。
在宅介護で使えるサービスとしては、下記などがあります。
- 訪問介護
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所生活・療養介護(ショートステイ)
どのサービスを使えるか分からないときは、ケアマネジャーに相談してみましょう。
会社の介護支援制度を利用する
2つめは「会社の介護支援制度を利用する」ことです。
家族に介護が必要になると「介護の為に、会社を辞めよう」と考えることが多いでしょう。ですが介護にはお金がかかります。また介護を終えた後に再就職をしようと考えても、給与や条件が悪くなる場合が多いです。
長期的に介護を続ける為にも、仕事を続けることをおすすめします。その為に、会社の介護支援制度(以下育児・介護休業法)があります。
「育児・介護休業法」とは、育児や介護を行う労働者が、仕事と生活を両立させていけるよう、企業が支援するといった法律です。
家族で介護が必要になった場合、企業に下記の申請をすることができます。
- 要介護状態の家族1人につき、通算93日までの介護休業。
- 介護しながらの勤務の負担軽減を目的とした、勤務時間の短縮や時間外労働の制限。
- 要介護の家族1人につき年5日まで介護休暇。
「制度があっても実際には利用しにくい」「勤務時間を短縮して、降格するのではないか」と感じる人もいるでしょう。ですが介護支援のための制度を利用したことで、解雇や降格、減給をすることは、法律で禁止されています。
制度の利用を考えている場合は、会社の規定や上司に確認しましょう。
認知症の家族が、気持ちや悩みを語り合う場へ参加する
3つめは「認知症の家族が、気持ちや悩みを語り合う場(以下認知症カフェ)へ参加する」ことです。
上記のように介護サービスや介護支援制度を活用しても、家族は介護の悩みや不安が溜まりがちです。
そこで、悩みや不安が解決しやすい認知症カフェへ参加することをおすすめします。認知症カフェとは、認知症当事者やその家族、地域住民などが相互に情報共有したり、互いを理解し合う「集いの場」です。
運営に関して決まった方針があるわけではなく、活動内容も様々です。在宅介護をする中での気持ちや悩みを吐き出すことができる場所だけでなく、認知症当事者や家族の気分転換にもなります。
認知症カフェの開設状況は、県や市町村のホームページで確認することができます。「介護の悩みや不安を吐き出したい」という人には、おすすめです。
1人で抱え込まない
4つめは「1人で抱え込まない」ことです。
自分だけが主な介護者になると「他の兄弟が遠方にいて頼めない」「自分の子ども達には迷惑かけたくない」と考えがちでしょう。ですが1人で介護を続けると、共倒れになることが多いです。
限界がくる前に、周囲に助けを求めましょう。周囲に「今のままだと、1人では大変だ」ということを伝えて「○○をして欲しい」と明確に伝えると良いです。言われた相手も「△△はできないけど、○○はできる」と、できることを伝えやすいです。
また可能であれば、自分の子ども(認知症当事者にとっては孫)にも、協力をお願いしましょう。思春期の子どもは、想像以上に親や祖父母のことを見ています。「お父さんとお母さん、おばあちゃん(おじいちゃん)の介護で大変そう。でも私が何か言っても、取り合ってくれないかもしれない。」と考え、自分からは言えないことが多いです。
「夕方一緒にいて欲しい」「一緒に近所の散歩をして欲しい」といった、短時間であれば可能な場合もあるので、話をしてみましょう。
介護は「チームで取り組む長距離走」
認知症家族の介護は、長期的になります。1人で抱えこまず、介護サービスや制度を活用して、継続的に続ける必要があります。
また介護に専念するだけでなく、主たる介護者である自分の時間を確保することも重要です。デイサービスやショートステイなどを利用して、介護のことを忘れる時間を作ることを心掛けましょう。