「せん妄と認知症の違いがわからない」と悩んでいませんか?
確かに、似たような症状がみられるため判断がつきにくいでしょう。
本記事では、せん妄と認知症を患う利用者さんの対応の仕方を知りたい方に向けて、違いを詳しく解説します。
せん妄とは?症状や原因について
簡単にいうと意識の混乱で、妄想や幻覚が起きたり現在の時間や場所がわからなくなったりなどの症状が起きるのが「せん妄」です。
高齢者に起こりやすい病気で、特に認知症を患っている方は起こりやすい傾向にあります。
原因は脳の疾患によるものや内科的な病気と幅広く様々で、がんの末期などの病状が重い状態の時にも起こすケースもあります。
症状
せん妄の症状は幅広く、下記のようなものが挙げられます。
- ぼーっとする
- 話のつじつまが合わない
- 昼夜のリズムの乱れ
- 妄想・幻覚
- 時間や場所がわからなくなる
- 夕方あたりから落ち着きがなくなる
基本的に症状は日中に起きることがあまりなく落ち着いており、夕方から夜にかけて悪化する「日内変動」がある方が多いです。
高齢者が起こす原因
高齢者はもともと発症率が高い傾向にありますが、加えて脳卒中、認知症、パーキンソン病といった脳の病気の既往歴がある方が「風邪」「睡眠不足」「便秘」「脱水」などの症状が刺激となり、突然発症するケースもあります。
若年者が起こす原因
若年者でもせん妄を起こすことがあり、肺炎や腎不全といった体の状態を著しく低下させる病気にかかることが主な原因です。
環境の変化や薬の副作用が原因であることも
環境の変化によるストレスや薬の副作用によっても発症します。
例えば、閉ざされた環境での入院生活、手術後といった状況で起こす人がいます。
副作用に関しては、鎮静剤やモルヒネなどの医療用麻薬、抗うつ薬、ステロイドによるものが挙げられます。
認知症とは?症状や原因について
脳の細胞が死んでしまうことで精神・身体活動が上手くいかなくなり、日常生活に支障をきたす脳の病気が「認知症」です。
脳の萎縮や血管が詰まり一部の細胞が死んでしまうことで発症し、約6ヶ月以上症状が継続すると認知症であると認められます。
いくつかタイプがあり「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」の発症数が多く、それぞれ症状の特徴や原因が異なります。
症状は大きく「中核症状」と「周辺・随伴症状」に分けられます。
症状①中核症状
「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の障害」「実行力障害」などが中核症状に該当します。
病的に記憶力が低下するため「新しいことを覚えられない」「覚えていた記憶も失い思い出せない」といった症状が現れます。
見当識とは、時間や場所を把握することをいいます。
認知症になると「待てない」「今日が何日かわからない」など、時間や季節の感覚が失われていきます。
さらに進行すると、方向感覚や場所を把握する力が失われていき、遠くまで歩いて出かけてしまうことも。
人間関係の把握も見当識に含まれ、過去の記憶を失うところまで症状が進行すると、家族構成や家族の状況などがわからなくなります。
理解や判断力も病的に低下し、一度に処理できることが減ったり、いつもと違う出来事が起こると混乱やパニックを起こしたり、理解していながらも行動にうまく結びつけられなかったりするのも認知症の中核症状の一つです。
また、計画を立てたことを実行することが苦手になるのも認知症の特徴です。
例えば、鍋の水を温めている間に洗濯物を畳むことを計画します。
しかし、洗濯物を畳んでいるうちに温めていることを忘れ、そのままコンビニに行ってしまうなどの行動に出てしまいます。
今していること以外に並行していたこと自体を忘れてしまうため、同時進行ができないのです。
症状②周辺・随伴症状
「不安や焦燥」「うつ状態」「幻覚や妄想」「徘徊」「興奮や暴力」「不潔行為」「せん妄」が周辺・随伴症状に該当します。
「認知症の利用者さんから暴力や暴言を受ける」「食糞をする(自分の便を食べる)人がいる」などの声をきいたことがある方もいるかもしれませんが、これらの行動も周辺・随伴症状です。
先ほど紹介したせん妄も、認知症の周辺・随伴症状で起こることがあります。
また、症状がさらに進行すると、ぼーっとして言葉を発することもなければ相づちをすることもない状態になる方もいます。
アルツハイマー型認知症の症状・原因
認知症で最も多い原因が「アルツハイマー型」です。
長い年月をかけて「アミノロイドβ」「リン酸化タウ」というタンパク質が脳に蓄積し、脳の細胞が死んでしまって萎縮することで起こります。
症状として多いのが記憶障害で、次いで物の名前がわからないなどの「失語」、目で認識しているものを情報として把握しがたい「失認」、今までできていたことができなくなる「失行」といった症状も現れることもあります。
血管性認知症の症状・原因
脳梗塞や脳出血といった脳の血管障害によって一部の神経細胞が死んでしまったことで起こるのが「血管性認知症」です。
症状は脳の血管障害を起こした場所によって異なり、麻痺などの身体症状を伴うケースが多いです。
レビー小体型認知症の症状・場合
レビー小体型認知症は「αシヌクレイン」というタンパク質が脳に蓄積することで起こると考えられています。
「幻覚が見える」「転びやすい」「パーキンソン症状」「認知機能障害の変動」といった症状があり、先に出る症状の個人差が大きいのが特徴です。
せん妄と認知症の違いについて
せん妄と認知症は、見当識障害など共通している症状が多く似ているため、見分けが非常に難しい病気です。
しかし、せん妄と認知症には決定的な違いがあり「意識障害の有無」と「症状の出方や変動」で見分けられます。
意識障害の有無 | 症状の出方 | 症状の日内変動 | |
せん妄 | あり | 突発的 | あり |
認知症 | なし | 少しずつ進行 | なし |
せん妄の場合、何らかの原因で脳の血流や脳代謝に異常をきたし、二次的に脳の機能低下が生じて意識障害を起こし発症しています。
一方認知症は、後天的な脳障害が原因となって知的機能が持続的に低下し、意識障害がないにもかかわらず日常生活に支障をきたす症状を発症している状態です。
症状の出方や変動については、せん妄は一日のうちに症状が変動し、なおかつ急性の発症です。
一方認知症は、年月をかけて徐々に症状が進行して現れ、1日のうちの変動はありません。
症状によるトラブル時の向き合い方
せん妄や認知症による暴力や錯乱などの危険なトラブルが起きた場合、介護士が取るべき行動は2つあります。
1つ目は「落ち着くこと」です。
特にせん妄による幻覚は突発的で、急に興奮したり動き回ったりします。
2つ目は「話を無理に止めないこと」です。
認知症の方もせん妄による突発的な言動も、無理に止めず話を聞いてあげることで次第に満足して落ち着いてきます。
また、せん妄や認知症による暴力がみられる利用者さんの周りには、危険なものを置かないようにすることも大切です。
花瓶などの割れ物や投げつけられるようなものを部屋に置かないようにすることで、大きなケガを予防できます。
せん妄と認知症は原因・症状が違う
せん妄と認知症の症状にはいくつも共通点がありよく似ていますが、意識障害の有無や症状に変動があるか、突発的な症状か徐々に症状が進行して現れるかという違いがあります。
ただし、認知症の周知・随伴症状の中にせん妄もあるため、認知症とせん妄の両方を持っている方もいます。
利用者さんによって同じせん妄や認知症でも現れる症状には個人差があるため、個々にあった対応が必要であることには違いありません。