認知症とは、脳の機能が低下して記憶力や判断力などが衰える状態です。
認知症にはさまざまな原因やタイプがありますが「認知症かもしれない」と不安になった時にどこに相談すればよいのか、どんな検査を受けるのかわからない人が多いでしょう。
そこで今回は、認知症診断の流れや検査方法とともに、早期に認知症診断を受ける重要性をお伝えします。
認知症診断の手順と検査の方法は?
物忘れがひどくなったり、話が通じなくなったりするなど認知機能低下のサインに気づいたら、まずかかりつけ医や地域包括支援センターなどに相談することが大切です。
高齢化率が28%を超える現在では、もの忘れ外来を併設する病院が増えてきました。
専門医による認知症診断は、以下の手順で実施されます。
問診(面談)
生活歴をはじめ、これまでの既往歴や服薬歴、現在困っていることなどの聞き取りが行われます。
- どんな症状で困っているか
- その症状はいつ頃からあり、どのように経過しているか
- 家族構成や生活環境に変化はあったか
- 睡眠時間や飲酒・喫煙状況
- 日常生活において支障が生じているか
- これまでにかかった病気や現在飲んでいる薬
- この半年間に症状は進行したか
このようなことを聞かれることが多いので、すぐに答えられるように事前にメモで箇条書きにしておくとよいでしょう。
問診表がホームページで公開されている病院もあるので、参考にしてみてください。
身体診察
発話・聴力・手足の麻痺や不随意運動などを確認します。
血液検査や尿検査も実施するところが多く、甲状腺ホルモンやビタミンB12などの値を測定し、認知症以外の病気の可能性も同時に探ります。
神経心理学的検査
神経心理学検査は、日常生活で必要な記憶力や言葉の理解力、計算力などの基本的な認知能力を質問や作業によって判定するスクリーニング検査です。
検査の結果が一定基準の点数に満たないときは「認知症の疑いがある」と判定されます。
また、得点だけでなく、間違えた内容や回答の仕方なども重要な手がかりとなります。
代表的な検査方法はHDS-RやMMSEです。
認知症の検査に用いられるHDS-RとMMSEについて紹介します。
HDS-R(改正長谷川式簡易知能評価スケール)
HDS-Rは今日の日付や、今いる場所、簡単な計算、記憶(3つの単語を暗唱させてから、数分後に再度尋ねる)などの簡単な設問で時間がかからないため、認知症診断で広く用いられています。
30点満点で、20点以下の場合は認知症の可能性が高いです。
MMSE(ミニメンタルステート検査)
MMSEは11項目からなる質問や課題に答えてもらい、記憶力や計算力、言語力、見当識(現在の日時や場所などを把握する能力)などの認知機能を評価します。
それぞれの項目には点数が設定されており、約10分程度で行うことができ、合計30点満点で採点します。
一般的には23点以下で「認知症疑い」、24〜27点で「軽度認知障害(MCI)疑い」と判断されることが多いです。
MoCA(モントリオール・コグニティブ・アセスメント)
MoCAは、紙とペンだけでなく、時計や動物の絵などを用い、認知機能のさまざまな領域を評価する12種類の課題から構成されており、合計30点満点で26点以上が正常範囲です。
認知症や軽度認知障害の鑑別に有用なツールとして広く利用されています。
脳画像検査
医師の判断で必要な場合は、脳画像検査を実施します。
MRI(磁気共鳴画像法)やCT(コンピュータ断層撮影法)を使用し、認知症につながる脳の萎縮や脳卒中などの出血、脳腫瘍の有無が確認可能です。
診断結果の説明
認知症の診断はさまざまな角度から総合的に判断され、医師から結果と治療方針の説明があります。
診断結果は、「正常」「軽度認知障害」「軽度」「中等度」「重度」の5段階で示され、治療方針は、「生活指導」「薬物治療」「リハビリテーション」などがあり、生活スタイルや家族環境に応じて今後の方針が決定されます。
ただし、一度だけでは正確に判断できない場合もあるため、定期的に受診して経過観察することが大切です。
認知症診断を受ける重要性
認知症が疑われる症状が現れても「年のせいだから仕方ない」と症状を軽く考える人が多く、早期の段階で病院を受診する人は決して多くありません。
物忘れや話が通じないと感じたら「ついに認知症になったのか」と諦めるのではなく「本当に高齢のせいだけだろうか」と考え、認知症診断を受けることが大切です。
認知症は早期発見・早期診断が大事であるといわれる理由は大きく以下の6つです。
他の病気が原因で認知症状が起きている可能性を見逃さない
物忘れや行動の変化は、必ずしも認知症が原因で起こっているわけではありません。
睡眠不足や一過性のストレス、薬物副作用、甲状腺機能低下などでも認知機能の低下が起こります。
早期に認知症診断を受けることで、認知症以外の病気の発見になり治療に繋がります。
認知機能低下の程度や原因を正確に把握できる
認知症診断は「今、何が苦手で困っているのか」を明確化できます。
例えば、記憶があやふやになってきている場合は、メモに書く、壁にスケジュールを貼るなどの視覚的なアプローチが可能です。
時間の把握が苦手な場合は、アラームで定刻を知らせるという改善策があります。
適切な治療や介護計画を受けることができる
認知症の原因やタイプを特定することで、適切な治療法や介護の仕方が選択できます。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症は現在根本的な治癒法はありませんが、初期から中期にかけては薬物治療が有効です。
予防的な生活改善やリハビリテーションを始めることができる
パズルやクイズなどで頭を使ったり、散歩や体操などで身体を動かしたりすることで脳の機能を刺激して衰えを防いだり回復させたりする効果があります。
日々の生活のなかで意識的に取り入れることで、認知機能低下の防止につながります。
経済的・法的・社会的な支援制度を利用できる
認知症は介護保険法に基づく要介護認定対象者です。
つまり、診断書を提出して要介護度または要支援度に該当すれば、介護保険サービスや支援制度を利用できます。
例えばデイサービスやショートステイを利用し、専門的なケアやレクリエーションを受けたり、訪問介護などの在宅型サービスで自宅で必要な生活援助や医療的ケアなどを受けたりできます。
家族や周囲への理解や協力を得やすくなる
認知症診断を受けることで、認知症の進行速度や能力低下の程度を把握でき、サポートする家族の今後の生活環境や金銭面などを考える良いきっかけになるはずです。
また、認知症診断の結果が運転免許証の返納に繋がるなど、事故に巻き込まれるリスクも軽減されます。
不安を感じたら認知症診断を受けよう!認知症は早期発見が大切
認知症になると、日常生活や社会活動に支障が生じ、家族や周囲の人との関係に悩みます。
認知症はいかに早く診断を受けるかがカギになります。
認知症診断を受け、早期発見・早期対応することで、適切な治療やケアを受け、認知症の進行を遅らせたり、生活の質を向上させたりすることが可能です。。
- 認知症に対する正しい理解や情報を得ることで、不安や孤立感を減らすこともできるでしょう。