介護福祉士国家試験では、必ず認知症に関する問題が出題されますし、介護士として現場で活躍するためにも、認知症の知識は深めておくべきです。
しかし、種類や症状、多くの用語が覚えにくく理解するのが大変なため、苦手意識を持ったり勉強を後回しにしたりしている方もいるでしょう。
そこで今回は、国家試験に必ず出題される科目「認知症の理解」について、認知症の種類や症状についても解説します。加えて、若年性認知症の問題も出題される可能性が高いため、併せて確認しておきます。
「認知症の理解」とは
介護福祉士国家試験の問題は、11科目群から125問出題され、1問1点の125点満点です。
11科目群のひとつに「認知症の理解」があり、毎年10問出題されています。
認知症の種類や、中核症状と周辺症状、また介護者・家族の関わり方、認知症施策など幅広く出題されます。
10問のうち何問かは事例問題も出題されますが、基本的な知識や介護技術があれば解ける問題が多いです。そのため、しっかり勉強しておけば「認知症の理解」の科目で10点満点を取ることも難しくありません。
種類と症状
各認知症の種類と症状はしっかりおさえておきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中でもっとも発症が多く、女性のほうが多いという特徴があります。
脳の記憶に関する部分にアミロイド、神経細胞の中にタウという異常たんぱくが蓄積し、はじめに海馬が委縮し、だんだんと脳全体が委縮していきます。
脳の細胞が壊れておこる「中核症状」と、中核症状によっておきる「行動・心理症状(周辺症状)」があります。
中核症状:以下の5つがあります。
- 記憶障害:いわゆる「もの忘れ」。新しいことが覚えられず、同じ話を繰り返したり何度も聞いたりする。病気の進行により、覚えていたことも忘れ、できたこともできなくなっていく。
- 見当識障害:いつ、どこで、自分は何をしているのか、自分の現在の状況や人間関係が理解できなくなる。
- 実行機能障害:「遂行機能障害」ともいい、計画的に行うこと、順序立てて実行することができなくなる。
- 理解、判断力の障害:情報を処理する能力が低下し、理解に時間がかかる。同時に2つ以上言われたり早口で言われたりすると理解できない。
- 失行、失認、失語:失行は身体機能に問題がないのに動作や物の操作ができなくなる。失認は感覚や状況、空間を認識できなくなる。失語は言葉を話す、理解することが難しくなる。
行動・心理症状(周辺症状)は、中核症状と本人のもともとの性格や心理状態、環境などが複雑に絡み合ってあらわれます。個人差が大きいですが、以下のような症状があらわれることが多いです。
- 不安・抑うつ:認知症からの不安や苛々が募りうつ状態になる
- せん妄:体調不良や環境の変化、薬の影響などでおこる意識障害
- 興奮:感情の起伏が激しくなり、暴力や暴言に発展することもある
- 徘徊:家の中でずっと歩き回る、外出して道に迷う、目的地を忘れても歩き続けるなど
- 睡眠障害:不眠や昼夜逆転、レム睡眠行動障害など
- 妄想:もの盗られ妄想や被害妄想など
脳血管認知症
脳血管認知症は、認知症全体の約20%を占め、男性のほうが発症者が多いです。
脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こります。発症者は、高血圧、糖尿病、心疾患などの危険因子を持っていることが多いです。大きな脳梗塞や脳出血により急激に認知症を発症したり、小さな梗塞や出血を繰り返して徐々に進行したりする場合もあります。
おもな症状は、記憶障害と認知機能障害です。しかし、突然症状があらわれたり急に落ち着いたりすることを繰り返します。また「まだら認知症」ともいわれ、障害されなかった部分の機能は保たれ、障害された部分はなにもできなくなることが特徴です。
歩行障害などのパーキンソン症状が出ることもあります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、神経変性による認知症で、ほかの認知症にはない特徴的な症状があります。
脳の一部、前頭葉や側頭葉前方の萎縮によっておこります。神経変性による認知症は、脳の神経細胞が少しずつ減ったり本来ない細胞ができたりして発症します。
前頭葉は「人格・社会性・言語」、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」の機能があります。そのため、これらの機能が正常ではなくなり、以下のような症状がみられることが多いです。
- 社会性の欠如:万引きなど、善悪の区別がつかなくなる。身だしなみも気にしなくなる。
- 抑制がきかなくなる:暴言や暴力、自分にも他人にも抑制がきかなくなる
- 感覚の鈍麻:他人に共感できない、感情移入ができないなど、感覚が鈍くなる
- 自発的な言葉の低下:同じ言葉を言い続ける、言われたことをそのまま言うなど、自発的な言葉が出にくくなる
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、男性のほうが女性よりも発症が多く、ほかの認知症よりも進行が早い特徴があります。
レビー小体という異常なたんぱくが大脳皮質に多くたまり、神経細胞が減少しておこります。
おもに記憶障害の認知症状と、転びやすくなるパーキンソン症状、幻視などがあります。症状のムラや、気分や態度の変動が激しいことが特徴です。
以下のような症状が多くみられます。
- 認知機能障害:いつ、どこなどの状況把握ができない、会話の理解力が低下する。
- 幻視:夜間にあらわれやすく、またありありと現実のように見えていることが特徴
- パーキンソン症状:運動の障害で体がこわばり動きにくくなる、手の震えなど。転倒のリスクが高くなる。
どのような問題が出題される?
介護福祉士国家試験では、認知症の種類と症状の特徴に関する問題が頻出しています。
また、認知症の人への介護、症状に対する正しい対応、家族への支援が問われています。
若年性認知症
若年性認知症は、40歳から64歳に発症した初老期の認知症に加え、18歳から39歳までに発症した若年期の認知症の総称です。
若年性認知症患者の総数は3.57万人と推計され、有病率は、18歳〜64歳の人口10万人あたり50.9人です。
若年性認知症の原因となる疾患は、アルツハイマー型認知症がもっとも多いです。高齢者の認知症と比較すると、前頭側頭型認知症や脳血管性認知症、アルコール性認知症の比率が高くなっています。
アルコール性認知症とは、アルコールの多量摂取を続けた結果、脳が委縮したりビタミンB1欠乏症により栄養障害をおこしたりして生じる認知症をいいます。
どのような問題が出題される?
過去3年分の過去問でみると、若年性認知症に関する問題は令和3年度に1問出題されています。
[令和3年度問題80]
若年性認知症(dementia with early onset)に関する次の記述のうち、最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 75 歳未満に発症する認知症(dementia)である。
2 高齢者の認知症(dementia)よりも進行は緩やかである。
3 早期発見・早期対応しやすい。
4 原因で最も多いのはレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies)である。
5 不安や抑うつを伴うことが多い。
⇒正解:5
さらに遡ると、平成28年度にも1問出題されていますが、上記のように基本的な知識で解ける問題です。
また、ほかの認知症の問題の選択肢の中に、若年性認知症の発症年齢や特徴が紛れていることもあります。
そのため、各認知症の知識を曖昧にせずしっかり確認しておくことが重要です。
国家試験に合格して現場で活躍しよう
本記事では、国家試験に必ず出題される科目「認知症の理解」について、認知症の種類や症状、若年性認知症についても解説しました。
介護福祉士国家試験に合格することは、役職に就いて活躍できたり、給料が上がったりとキャリアアップにつながります。しかし、資格があって知識や技術が伴わなくては、利用者さんの対応にも部下の教育にも困ります。
令和5年度の国家試験まで残りわずかとなりました。
試験対策はもちろん大切ですが、それ以上に体調管理が大切です。試験本番で実力を発揮できるように、食事や睡眠に気を配って、合格を勝ち取ってください。