「ケアプラン」という名称は、介護の仕事に携わる方はもちろんのこと、一般的にも聞いたことがある方が多いでしょう。
しかし、ケアプランには何が記載されているのかなど、詳しくは知らない方が多いのではないでしょうか。
本記事では、ケアプランの概要と、ケアプランの中でも「施設ケアプラン」について解説します。
さらに施設ケアプランの中でも重要な「長期目標」「短期目標」についても解説し、具体例も紹介します。
ケアプランとは
ケアプランは、正式名称を「介護サービス計画書」といいます。
利用者さんのニーズや目標にそってどのような介護を提供するのか、介護サービスの種類や内容、スケジュールなどが記載されています。
介護保険のサービスを利用するためには、ケアプランが必要です。
そのため、ケアプランは利用者さんと介護保険サービスをつなぐ重要な役割を担っています。
しかし、ケアマネジャーが一人で作成するものではなく、利用者さんや家族から意向や困りごとを聞き取り、医療や介護の専門職と相談して作成します。
施設ケアプランとは
施設ケアプランは、介護3以上の認定を受けて特別養護老人ホームに入居している方、または介護1~5の認定を受けて介護老人保健施設や介護療養型医療施設に入居している方のためのケアプランをいいます。
ケアプランの内容はほかにも、要介護1~5の認定を受けて在宅で生活をしながら介護保険サービスを利用する方のための「居宅ケアプラン」、要支援1・2の認定を受けた方が要介護状態にならないように予防するための「介護予防ケアプラン」があります。
構成
ケアプランはそれぞれ様式が定められています。
施設ケアプランは第1表から第6表までで構成されていますが、第1表から第3表までに計画や目標に関する内容が記載されています。
- 第1表:氏名や生年月日、介護度などの基本情報、利用者さんや家族の意向、総合的な援助の方針
- 第2表:利用者さんや家族のニーズ、長期目標、短期目標、サービスの種類や具体的なサービス内容
- 第3表:1週間の介護サービスのスケジュール
- 第4表:1日の日課や介護サービスのスケジュール
- 第5表:介護サービス内容を利用者さんや家族、専門職で話し合った内容の記録
- 第6表:日常生活やサービス提供時の様子の記録
作成の流れ
ケアプランの作成は、基本的には以下の流れで作成します。
- 相談:利用者さんの現状把握、初回面談
- アセスメント:利用者さんの情報収集、意向やニーズの聞き取り
- ケアプランの原案を作成:アセスメントを元に作成
- サービス担当者会議:ケアプラン原案をもとに利用者さん・家族と、関わる介護スタッフ全員(医師、看護師・介護士・リハビリスタッフなど)と話し合う
- ケアプランの修正・完成:サービス担当者会議により修正点があれば修正する
- ケアプランの交付:利用者さん、ご家族へ説明し同意が得られれば署名をいただき交付、関係各所へも交付し共有する
- モニタリング:介護サービスが適切か、目標とのずれはないか確認
ケアプランは作成後、定期的に見直しを行い更新していきます。
定期的に(短期目標や長期目標の終了時)にケアプランの見直しを行いますが、それ以外にも不定期に見直しを行うこともあります。
不定期の見直しは、利用者さんの状態(病状や心身の状態など)に変化があり、提供するサービス内容を変更する場合です。
ケアプランの見直し、更新する場合は必ず上記の2~7の手順を踏みます。
ケアプランを作成するだけではなく、定期的に見直すことがポイントです
第2表の「長期目標」と「短期目標」
施設ケアプランに記載されている内容はどれも重要ではありますが、特に第2表の「長期目標」と「短期目標」は、利用者さんにとっても施設の職員にとっても重要な役割を果たします。
なぜなら、利用者さんが望む生活を送るための目標、さらに目標を達成するためにやるべきことが具体的に記載されているからです。
介護サービスの一つひとつにはそのサービスが必要な根拠や行う目的があり、第2表に記載されています。
なお、介護保険では「自立支援」の考え方が基本です。
自立支援とは利用者さんができないことをただ支援するのではなく、利用者さんの能力に応じた支援、また意欲を引き出し強みやできることを活かせるように支援することをいいます。
自立支援とは?
「自立」とは、「他の援助を受けずに自分の力で身を立てること」の意味であるが、福祉分野では、人権意識の高まりやノーマライゼーションの思想の普及を背景として、「自己決定に基づいて主体的な生活を営むこと」、「障害を持っていてもその能力を活用して社会活動に参加すること」の意味としても用いられている。
厚生労働省
ケアや福祉分野に関わる人達は、上記のような自立の概念を知っておくことが重要です。
やみくもに手を差し伸べることだけが自立支援なのではなく、主体的な生活や社会活動への参加を支援することなど、より広義の意味での「自立支援」を行っていくことが大切です。
なんでもかんでもサポートすれば良いというものではありません
長期目標の設定
長期目標とは、利用者さんがめざす方向性やゴールです。
利用者さんの意向をしっかり把握し「将来的にどうなりたいのか」「どのような生活を送りたいのか」というニーズに沿って設定します。
長期目標に取り組む期間は概ね一年で設定することが多いですが、利用者さんの病状や状態によって半年で設定するなど、一人ひとりに合わせて設定します。
重要なポイントは、その目標を達成することにより「どのような望む未来が実現できるのか」です。
そのため、ただ「○○ができるようになる」だけでは不十分です。
「○○ができるようになって△△ができる」のように、目標を達成することによって実現できる未来を明確にして、利用者さん自身がめざしたいと思える目標でなければなりません。
短期目標の設定
短期目標とは、長期目標を達成するために段階を踏んで達成していく目標です。
長期目標を細かく分割し、短期目標を達成していくことで長期目標が達成できるように設定します。
短期目標は約3か月から6か月で達成できる目標を設定し、ゴールに向かって今取り組むべきことを具体的に設定します。
また、短期目標達成のために行うサービス内容や利用者さん自身が取り組む内容などの詳細を記載し、誰が見てもやるべきことがわかるようにします。
具体例①
長期目標「歩けるようになって、家族と一緒に歩いて散歩を楽しめる」
短期目標「ベッドやイスからの立ち上がりができるようになる」「歩行器で自分の部屋からリビングまで歩けるようになる」など
施設へ入所した頃は家族と一緒に歩いて散歩ができていたが、一度入院してから体力が落ちてしまい、現在は外出時は車椅子を使用している。
車椅子で散歩には行っているが、本人は「車椅子では会話がしづらい」「今まで見ていた景色と違う」と感じており「また家族と一緒に歩いて散歩に行けるようになりたい」と思っているケース。
具体例②
長期目標「浴槽の出入りができるようになり、ゆったり湯につかれてリラックスできる」
短期目標「リハビリを続けて、立位保持が30秒以上できるようになる」「浴槽台やバスボードを利用して浴槽の出入りができる」など
現在は浴槽をまたぐ動作が難しく、機械浴で入浴している。
機械浴では音や振動で緊張してしまいお風呂が楽しめないため、また普通のお風呂に入ってゆっくり湯につかりたいと思っているケース。
具体例③
長期目標「自分で食事が食べられて、自分のペースで食事を楽しめる」
短期目標「最初の10分は自分でスプーンを使って食べることができる」「食べこぼしを減らして、しっかり食事がとれる」「右手のリハビリを続けて、食事動作ができるようになる」など
脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺が残り、利き手の右手をうまく使えなくなってしまった。
左手で食事をしているが、食べこぼしが多いことと疲れてすぐ手が止まってしまうため、ほぼ介助で食事をしている。
しかし、自分のペースでゆっくり食事を楽しみたいと思っているケース。
ケアプランの知識を深め、専門職として活躍しよう
本記事では施設ケアプランについて、また施設ケアプランの中でも重要な「長期目標」と「短期目標」について解説しました。
ケアプランは利用者さん自身のためのものです。
ケアプランは画一的だったりケアマネジャーや職員目線だったりしがちですが、利用者さん一人ひとりの意向に合わせたケアプランを作成することが重要です。
そして、利用者さんにとってはもちろん、家族や関わる専門職にとっても魅力的なケアプランであることが、自立支援や目標達成への第一歩です。
介護の仕事に携わる方はもちろんのこと、家族の介護をしていてケアプランを目にする機会があれば、利用者さんの意向がしっかり反映されているのか確認してみてください。
そして、介護の仕事に携わる方は、ケアマネジャーは当然のことながら、そのほかの職種も専門職としてより良いケアプラン作成に貢献できるように、日々自己研鑽に励んでいきましょう。